井上円了の教育理念

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- である。今回の高等教育拡張の方法をみても、そのことがよくわかる。つまり政府の方針 これがすなわち官主主義というものである。
は私立学校を減殺して官立学校を増殖するにありと推断するよりほかに考えようがない。
ドイツには私立大学がないと同時に英国米国には官立大学がない。これはドイツ教育が
官主主義で、英米は民主主義の証拠である。わが日本にては私立大学を許してあるも、従
来の方針がドイツの官主主義により、何となく私立を邪魔物にみなし、敬遠主義ならよい
けれども、嫌遠主義を取って今日に至った。……政府はただ私立学校の設備の不完全を責
むるのみにて、これをして完全ならしむる方法を与えぬ、あたかも水利を官田にばかり供
Ⅳ 新しい教育理念を求めて
給し、すこしも私田に及ぼさずしてその田の荒廃を責むると同様である。……私立学校を
愛育擁護する道を講ずるこそ戦後の大勢に順応するものというべきである。
近年危険思想に関しその筋の警戒ありと聞く。その中にはとかく私立学校がかかる思想
を養成して困るとの意見を有するものもあるやに聞き及んでいる。もし万が一にも私立学
校にかかる恐れありとするならば、これを防ぐ法は二つある。その一は私立全廃を実行す
ること、その二は私立を引立てて完全を期せしむることである。ただ今日のように活かす
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