井上円了の教育理念

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- 南船北馬
修身教会運動は、欧米諸国の社会道徳や実業道徳のレベルまで、日本の民衆の道徳や思
想を向上させ、それによって日本人の改良を達成しようというのが目的であった。対象と
なるのは一般民衆であり、自ら田学と称したように、井上円了は日本の基盤を形成する地
方都市、農村、山村、漁村などのいわゆる「地方」を重視した。
(一~十六編)に記録している。これによると、明治 井上円了はその足跡を『南船北馬集』
三十九年から大正七年までの十三年間に、全国六十市、二千百九十八町村を巡り、二千八
百三十一か所の会場で、五千二百九十一回の講演を行い、聴衆は延べ百三十六万六千八百
九十五人となっている。平均すると一年間に二百十八か所で講演し、一回の聴衆は二百四
十七人になる。まさに南船北馬(各地をいそがしく駆け巡ること)の活躍である。その後の大正
八年の巡講の結果を加えると、およそ講演回数約五千四百回、聴衆動員数百四十万人にも
のぼり、当時としては実に画期的な規模の社会教育活動であった。
しかし、現代のような発達した交通手段はなかったので、旅には多くの困難がつきまと
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