井上円了の教育理念
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- ぞれ無試験検定の再申請を行うように求め、十一月十日には哲学館事件で資格を失った加
藤三雄ら三名も、再度特典を得るように勧めた。特典があるかないかは財政的基盤の脆弱 であった。
な専門学校にとっては死活問題であり、とくに経営難の哲学館大学にとっては緊急な課題
井上円了 の退隠
特典をめぐる問題は、再申請を拒む井上円了と再申請を求める卒業生などとの対立であ
り、それは哲学館の存在そのものを根本から問うものであった。専門学校令によって哲学
館は大学部を持つに至ったが、同時に社会的には国家の教育制度の枠内に位置づけられた
Ⅲ 井上円了の教育理念
ことにより、 以前のように創立者の意志と決断だけで運営できる時代ではなくなっていた。
このような状況の中で、井上円了に対するさまざまな批難や中傷が出てきた。
哲学館は井上円了や井上家の私物ではないと批難するもの、あるいは哲学館大学は本当
は仏教の一宗一派の学校なのだという誤解なども生じた。彼は「世間は誤解の多きもの」
で、 いつかは疑惑も晴れるといっていたが、 卒業生からあからさまに批難されるに至って、
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