井上円了の教育理念

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- の洋行で見た西洋諸国はすでに十分に発展していると思っていたが、十五年ぶりに訪れて
みると、さらに進歩発展していることがわかった。その原因として、西洋各国の人々は⑴
質実倹約の国民で、⑵ものごとを遂行する忍耐力があり、⑶正直で信用があること、⑷貯
蓄が盛んに行われていること、をあげ、これらの性質は天性のものではなく、教育薫陶の
結果であり、それには学校教育以外の宗教教育が大きな役割を果たしていると分析した。 ことができると考えたのである。
そして、日本も修身道徳の教育を行うことによって、はじめて西洋文明国と肩を並べる
修身教会では「国勢民力」のレベルが西洋よりもはるかに低い現状を改革するのが目的
であった。そのため、当時の国民道徳の基本である教育勅語に基づいて、職業に必要な道
Ⅲ 井上円了の教育理念
徳を諭し、 また家庭における風習や行儀作法、 社会の習慣を一新させようとした。ただし、
注意しなければならないのは、井上円了は教育勅語を広義に解釈していたということであ
る。勅語の基本にある忠孝の考え方は鎖国時代となんら変わりがないものであったが、彼
はこれに博愛、独立、自営、立身、出世、自由などを加え、 「遠くは欧米諸邦の道徳を参
照し、近くはわが邦今日の状況を酌量して、開国の国民として守るべき諸般の心得」を教
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