井上円了の教育理念

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- して発表した。彼はここでは哲学館事件について多くを語らない。その目はすでに未来へ
向けられていた。彼はこれまで二度の災難(風災、火災)を乗り越え、転機としてきた精神
を発揮して、今度の人災を「独立の精神を発し、実用の教育を施す」ためのチャンスと位 針を定めた。
置づけたのである。そして、外遊で得たものと哲学館事件の教訓とを勘案して、以後の方
彼はイギリスと日本を比較しながら、基本方針を示している。イギリスが世界第一の国
家となった理由はその国民性にあり、イギリス人は、第一に実に独立自活の精神に富んで
いる、第二に実用的国民であって高尚な理論を極めると同時に実際を忘れることがない、
と二つを挙げている。 第二の理論と実際ということは哲学館の従来からの方針でもあるが、
これをさらに発展させて、また第一の独立自活の精神は日本国民にもっとも欠けているも ここで示された改革には六項目の特徴があった。 ⑴ 大学科の開設
のなので、これからはこの精神を養成することにつとめるとしている。
私立大学の開設状況に対応して大学組織をつくり、 哲学館事件の経験を生かして 「独
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