井上円了の教育理念

- ページ: 125
- 「われらは、目下問題となりおる哲学館事件につき、ム氏(ミュアヘッド)の動機説を、
教育上危険と認めず、また倫理学の教授に際し、中島氏が、その引例をそのままになしお
きし所作をもって、深くとがむべき不注意にあらずと認む」
これによって学問上の問題も、教授上の問題もいっさいないという認識が示され、以後
論争は収束の方向へ向かっていく。しかし、文部省が処分を撤回することはなかった。
中島徳蔵と学生
ところで、哲学館事件の真相を世に訴え、マスコミの論争に火をつけた中島徳蔵は、孤
軍奮闘していたが、学生も卒業生も彼のことを忘れはしなかった。彼はユーモアと風刺の
鋭さにおいて、学生に人気のある講師だった。有志が集まって、彼の講義を受けた卒業生
Ⅱ 教育理念の発展
や館内生から見舞金を募集したところ、三十七名から合計六十二円七十銭が寄せられた。
三月二十九日に代表者が中島を訪ねたが、彼は金を受け取ろうとしなかった。事件によっ
て哲学館、特に学生に禍いをもたらした責任を痛感していたからであった。
あとから学校の幹事の説得によって、彼は学生たちの好意を受けたが、その金で哲学館
121
- ▲TOP