井上円了の教育理念

- ページ: 112
- にそれ以前に書かれていた人類普遍の道徳を否定し、日本固有ということを強調した内容
のものが出てくる。その後、国家主義の傾向はしだいに強くなっていき、三十七年から使
用された国定修身教科書によってさらに徹底がはかられる。
哲学館事件はこのような社会的背景の中で起こったのである。事件の核心は「弑逆」す
なわち主君を殺害するという言葉にあったが、これは皇室や国体に反することを意味し、
そのために文部省は教育行政上、 重視したのであった。つまり、 政府が国民に「皇国臣民」
の意識を徹底させようと模索している過程において、目的達成のための一つのきっかけと れるのである。
位置づけられ、見せしめとして利用され、惹き起こされたのが哲学館事件だったと考えら
そして、 このような背景を持った哲学館事件は、 教授法をめぐる表面的な問題のほかに、 になった。
皇室と国家思想、学問の独立、思想の自由など、さまざまな角度から論じられていくこと
108
- ▲TOP