井上円了の教育理念

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- 火に焼かれ風にたをされ又人に 伐られてもなほ枯れぬ若桐 伐ればなほ太く生い立つ桐林
彼はこの所感を雑誌『東洋哲学』に寄稿し、学内外の人に自己の心中を伝えた。この歌 的に惹き起こされたものであるととらえていた。
の「人に伐られても」というところに表れているように、彼は当初から哲学館事件が人為
哲学館を見せし め に
哲学館事件が人為的なものであるという認識は、現在では極めて妥当な見方だと考えら ていたのである。
れている。その背景には、日清戦争から日露戦争に至る日本の社会の状況が深くかかわっ
日清戦争に勝利した日本は「東洋の日本」さらには「世界の日本」という展望を持つに
至った。国内的にも、富国強兵策によって生産活動が飛躍的に発展し、資本主義の成長に
つながった。しかし、それにともなって誕生した労働者階級の存在は、国家にとって大き
な問題となった。その中から国家そのものの存在を否認しようとする新しい思想、社会主
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