井上円了の教育理念

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- の関係についての教授法を報告し、同時に先の卒業試験の答案を提出せよという内容であ
った。文部省が哲学館における倫理学の授業内容を問題にしようとしていることを明確に よ現実のものとなってきたのである。
示したのは、これが最初だった。それまではただのうわさにすぎなかったものが、いよい
十一月十九日、中島徳蔵はミュアヘッドの『倫理学』と井上円了名義の文書を文部省に 趣旨を説明した。
持参した。彼は岡田良平に面会し、教科書として授業で使用した範囲を示しながら、その
中島は隈本有尚にしたのと同じ説明をして、弑逆についてはあくまでも理論上のことで
あって、実際上日本では適用されないと考えていることを述べた。また、 「忠君愛国」を
持論としている井上円了が館主の哲学館では、国体を揺るがすような教育は決して行って
Ⅱ 教育理念の発展
いないことを強調し、文部省の誤解を解こうとした。そして、なお不審な点があるなら哲
学館の視察をしてほしいと付け加えた。このとき、岡田は個人的には了解したと答えた。
十二月八日、中島徳蔵は教科書検定委員の山川健次郎に面会した。岡田良平との会談に
もかかわらず、十二月に入っても検定免許状は交付されていなかった。彼はさすがに不安
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