井上円了の教育理念

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- とりがあっただけで、なぜそのようなうわさが立ったのかということは謎であり、この点 から哲学館事件に疑問を抱く研究者も少なくない。
ともかく三人はうわさを耳にして心配になり、弁明に出向いたのだった。中島はミュア
ヘッドの倫理学における動機論を説明し、それが国家の秩序を乱すものではないこと、ま
た動機が善ならば弑逆も認めることがあるとはいえ、その動機の善ということは各人任意
のものであったり不合理であることは許されないことを述べた。そして、皇統連綿たる日
本においては、そのようなことは決してありえないことを強調した。しかし、隈本は会議
を理由にそうそうに話を打ち切ってしまった。そこで中島は理解を求めるために、いまの
趣旨が述べられている『倫理学概論』という本を贈呈した。
十一月十三日、井上円了は文部省総務長官岡田良平の自宅を訪問した。岡田は明治二十
Ⅱ 教育理念の発展
六年から文部官僚をつとめていて、この事件の後専門学校令(三十六年三月)や教科書国定
制度の実施(三十七年)を行い、のちには文部大臣として教育制度の改革を手掛けることに
なる。岡田は視学官の報告から哲学館に不都合があるとみていた。これに対して井上円了
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は、哲学館における倫理教育は理論と実際の二つにわけられ、理論面を中島徳蔵が、実際
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