井上円了の教育理念

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- ひきましたが、彼の行為は歴史家の承認を受けているのです」 「グリーンも、そういうふうに説明していますか」 「そうだと思います」と中島は答えた。
トマス・ヒル・グリーンはイギリス新理想主義学派の代表的哲学者で、自我実現説を展
開し、この中で自我の実現は自己の善であり、公共の善にほかならないとしている。そし
て、国家は自我の自由を実現すべきものであり、その主権の源泉は道徳的な共同意識にあ
るので、人間を自由にするために国家は積極的に干渉しなければならないとして、行き詰
まっていた十九世紀末期のイギリスに積極的な国家機能を認める新しい政治哲学を提供し
た。なお、ミュアヘッドはグリーンの自我実現説の影響を受けていた。
中島と隈本の間に交わされた問答は以上のようなものだった。隈本は、中島が弑逆をも
Ⅱ 教育理念の発展
場合によっては認めているということから、日本の国体上の問題であると指摘したことは のである。
明らかだが、中島はのちにこれが大きな事件に発展するなどとは夢にも思っていなかった
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