05 陸上・桐生を「ささえる」人 土江 寛裕 05 陸上・桐生を「ささえる」人 土江 寛裕

培ってきたスポーツ科学の知見に基づき、選手に明確な道しるべを示す。 培ってきたスポーツ科学の知見に基づき、選手に明確な道しるべを示す。

データを活用した理論的な指導法に行き着いたのは
どういった経緯があったのでしょうか。

私自身が競技者だった学生時代、自らのパフォーマンス向上のためスポーツ科学を学んでおり、その分野で大学院まで進みました。そこで専攻していたのが、バイオメカニクスです。動きやパフォーマンスを具体的な数値として可視化することで、「今の走りは良かった」という感覚的な手ごたえに対して、科学的な根拠を見出すことができるのです。何も持たず手探りで「速く走る」というゴールを目指すのは難しいですが、分析結果というコンパスを参考にすれば効率よく、正確に前進することが可能になります。それは指導においても同様で、選手の状況を客観的に捉えて次の指示につなげるのに、スポーツ科学の知識・思考法は何よりもの判断材料になっています。そのため、理論派の指導に行き着いたというよりは理論からのスタートだった、というのが正しいでしょうか。これまで競技者として自分自身が行ってきたチャレンジを、現在も選手たちとともに続けています。

まっすぐな両の眼で見据えている日本の陸上界の眩しい未来。 まっすぐな両の眼で見据えている日本の陸上界の眩しい未来。

指導者の視点から見える桐生祥秀選手について教えてください。

桐生は、とにかくまっすぐ。自分を無理に抑え込んだり、周囲に気を遣いすぎたりすることがなく、トレーニング一つとっても「自分はこうしたい」という意志をすべて表現してくれるタイプです。その情熱的で一本気な性格は、競技への姿勢にも反映されていると感じます。彼の指導においては、一方的にこちらが思い描く方向に導くのではなく、桐生自身が望む方向に向かって進めるよう、意見を尊重し一緒に考えて試行するというスタイルで臨んでいます。そんな私たちに共通するのは、今後の陸上界に対する願いです。選手がより速く走ることを追求するだけではなく、選手に興味を持って応援してくれる人や、憧れて陸上を始めたいと思う子どもたちを巻き込んで、陸上界全体の振興につなげること。それは、やがて巡り巡って選手自身のためにもなる。桐生も私も、そう考えています。陸上短距離はメジャーな競技になってきましたが、野球やサッカーなどのように競技場で実際に観戦してみたいと誰もが思うまでにはもう少しアプローチが必要です。東洋大学から、日本の陸上界を熱くする原動力になりたいと思っています。

二人三脚で目指してきた決戦の舞台へ、今。 二人三脚で目指してきた決戦の舞台へ、今。

これまでの桐生選手の指導のなかで、印象に残っている出来事はありますか。

今までの歩みのすべてです。東洋大学に桐生が入学し、一緒にやっていくと2人で決めたときから、東京での大舞台を目指して日々密度の濃い練習を積んできました。だからこそ今回、100mに出場できないというのは、本人も相当悔しいでしょうし、私も同じ気持ちです。しかし、リレーという種目を掴んだ今、切り替えてまた真摯に競技に挑んでいきます。この8年、日本の陸上短距離の最前線には常に桐生がいました。絶えず強豪同士がしのぎを削り合い、非常に入れ替えが激しいこの世界で、自らの確固たる地位を築くのは並大抵のことではありません。強烈なプレッシャーにも勇敢に立ち向かいながらたどり着いた夢の五輪、絶対に最高の結果を出してほしい。私はナショナルチームのスタッフとして、選手をできるだけ良い状態で送り出すために、全身全霊でサポートしていきます。

日本を元気に! 土江 寛裕

PROFILE

土江 寛裕 / TSUCHIE HIROYASU

【所属】
東洋大学陸上競技部(短距離部門)コーチ

記事の内容は取材当時(2021年7月)のものです。

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