13 稲葉選手 パラ馬術を「する」人 13 稲葉選手 パラ馬術を「する」人

馬と心を通わせ、風を切る。乗馬に感じた未知の可能性。 馬と心を通わせ、風を切る。乗馬に感じた未知の可能性。

馬術との出会い、始めたきっかけを教えてください。

小学生の頃は少年野球チームに所属する野球少年でしたが、身体が大きくなるにつれ、チームメイトと同じ練習についていけなくなりました。そんな時に、身体のハンディキャップに影響を受けにくい乗馬を母が勧めてくれたのが、馬術との出会いです。初めは大きな動物に触れることに戸惑いがあり、また、馬に乗ったときに目線が一気に高くなることや、不安定なバランスにも怖さを感じました。そのため、自ら進んで練習したいという気持ちは全くなかったというのが正直なところです。しかし、数か月練習を続け、一人で乗馬できるまでに成長すると、馬と一緒に、自分の足では走れないスピードで風を切るのが心地よいと感じるようになりました。馬から降りた後も、ブラシ掛けなどの手入れをしながらコミュニケーションを取ることが楽しく、いつの間にか乗馬をやめるという選択肢は消えていました。

趣味の乗馬から競技の馬術に移ったきっかけはありますか。

最初に通っていた乗馬クラブで、世界を目指す選手を指導していた方にお会いする機会がありました。競技としての馬術の存在を教えていただき、興味を持ったのが中学生の頃。実際に、世界を目指そうと心に火が付いたのは大学3年生の秋です。オーストラリアへ留学したのですが、その時に出会った友人たちの多くは何かしらの目標や目的意識を持った人ばかりで、「自分は何をしたいのか」と深く考えた時に、競技としての馬術が脳裏に浮かび、開催が決まっていた東京パラ大会にチャレンジしてみようと決意しました。

優雅さを極限まで高める、騎手の高い技術と馬との絆。 優雅さを極限まで高める、騎手の高い技術と馬との絆。

馬術の魅力を教えてください。

人馬一体となり優雅な演技を目指すのは、五輪もパラ大会も共通です。「馬の動きをいかに美しく見せるか」という競技のため、単純な乗馬とは全く異なります。馬の頭の位置や、あたかも馬が自然に動いているかのような騎手の繊細な指示など、非常に細かい部分も採点の対象です。パラ大会の場合、選手は障がいの種類や程度によって5つのグレードに分かれて競技を行います。さまざまな障がいを持つ選手が馬に指示を伝えるために行っている独自の工夫など、技術面の個性が多く見られるのはパラ大会ならではの観戦ポイントかもしれません。私の場合は両足に麻痺があり足の力が弱く、馬術では一般的である下半身による指示ができないため、鞭や舌を鳴らす舌鼓(ぜっこ)を使って馬の動きをコントロールしています。高得点につなげるためには馬との信頼関係も不可欠な要素で、その絆が競技中に垣間見えるのも馬術の深い魅力です。

たゆまぬ努力を重ね東京大会の「その先」を見据える。 たゆまぬ努力を重ね東京大会の「その先」を見据える。

ご自身の強み、
今後の目標についてお聞かせください。

騎乗している馬に関わらず、馬場内に設定されたコースを移動しながら、馬の動いた軌跡で馬場上に描かれる課題図形の正確性を評価していただくことが多いため、そこは自分の強みだと感じています。課題図形は正円や蛇行した線などさまざまな種類があり、パラ大会ともなると、求められる乗馬技術の精度は極めてハイレベルです。また、大きな大会では馬場がしっかりと整地されているので、馬の通った跡は一目瞭然でわかってしまいます。日本にはこれまでパラ馬術でメダルを獲得した選手がいないため、個人の決勝に残って日本人初のメダルを獲得することが一つの目標ですね。ただパラスポーツは、東京大会があるから一時的に注目されているだけ、という印象が残念ながらあります。今回で終わりではなく、もっとたくさんの人にパラスポーツ、パラ馬術を知ってもらい、応援していただけるようになるためには、今後も確かな結果を残していくことが重要だと感じています。2022年に行われるデンマーク開催の世界選手権でも出場権を勝ち取り、強豪ヨーロッパの選手と対等に戦えるよう、2024年のパリパラリンピックも見据えてたゆまぬ努力を続けていきます。

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Exclusive(エクスクルーシブ)号

伸びやかかつ柔らかな動きを持つオランダ生まれの12歳。
乗り手の指示にも忠実に応えてくれる頼れるパートナーです。

パラ馬術界初のメダル獲得! 稲葉 将

PROFILE

稲葉 将 / INABA SHO

【出身地】
神奈川県

【所属】
シンプレクス株式会社/静岡乗馬クラブ
(東洋大学 国際地域学部国際地域学科 2018年3月卒業)

記事の内容は取材当時(2021年7月)のものです。

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