

ゴールボールを始めたきっかけを教えてください。
中学2年終わりに目の病気を発症して、わずか半年で視力をほとんど失い、それまで部活動で必死にやっていた野球ができなくなりました。精神的にもショックを受け、一時は自暴自棄にもなりかけましたが、進学先の盲学校高等部で出会ったのがゴールボールでした。目が見えなくてもボールの中の鈴の音を頼りにコートで生き生きと身体を動かせることに衝撃を受け、すぐさまゴールボールの道へ。しかし、その道は思った以上に険しく、はじめはアイシェードを付けた真っ暗闇の中ではボールが左右どちらから来るのかも聞き分けられず、ましてやゴールを守ることなど到底できませんでした。視覚を完全に遮断されボールを受けることに怖さもありましたが、それ以上にまた身体を動かせる、スポーツができるということが、自分にとっては何よりも嬉しかったです。夢中になって練習を繰り返すうちに徐々に感覚を掴み、高校2年の時にはユースの日本代表合宿に選出されるほどに成長できました。


試合で勝つためにはどのような力が必要なのでしょうか。
試合で発生する音を聞いて、即座に身体を動かす敏捷性が第一です。通常は投球動作時や、ボールが宙を舞う間にも鈴の音が響くのですが、世界レベルの選手が投げる強い回転のかかったボールは遠心力の効果で鈴が鳴らず、たった2回程度のバウンド音のみでしか位置を把握することができません。そのような厳しい条件下でもゴールを守り、すぐ攻撃に移れるように、音の発生からいかにタイムラグなく身体を反応させられるかが勝利へのカギになります。また、チームの3人全員で戦略をたて、確実に点を狙うことも大切です。投球後にはすぐに、ボールがどこへ行ったか、相手の選手がどう動いたかを仲間からフィードバックしてもらい、次の攻めに活かします。
ご自身のプレイスタイルの強みは何ですか?
野球経験を活かしたボールコントロールです。ディフェンスの隙間をついたり、ゴールポスト付近を正確に狙ったりします。加えて球威も磨いているため、筋力と体幹のトレーニングが欠かせません。鍛え上げた体幹はディフェンスの時にも真価を発揮し、時速60~70kmもの球速あるボールが身体に当たっても勢いに負けずにガードできます。激しいスポーツのため骨折や靭帯を損傷したこともありましたが、回復やケガを防ぐ身体づくりのために必要な栄養素やトレーニング方法を調べるなど、ケガすらも自分の成長の糧にできるよう努めました。


今後の目標は何でしょうか。
まず、2020年のパラ大会本番では金メダルを目指してチーム一丸となって頑張ります。ここぞという場面で流れを変える1球を決めてみせるので、応援よろしくお願いします。また、今はゴールボールを世の中に広めるため、各地で講演会やスポーツ体験会を開いています。ゴールボールはパラスポーツ独自の競技ですが、認知度がまだまだ低いと感じています。しかし、アイシェードを付ければ視覚の障がいの有無に関わらず一緒にプレイできる面白いスポーツですので、多くの人に知っていただき、そして体験してもらいたいと思っています。普及活動は東洋大学在学時からずっと行っていますが、大学で学んだ障がい者福祉論やバリアフリー論では自分の実体験で感じたことを体系的な学問として理解でき、講演などをする際にとても役に立っています。今後も継続して、ゴールボールを視覚に障がいを持つ人とそうでない人の相互理解の架け橋、共生社会のきっかけにしていきたいです。

必勝守
パラ大会の日本代表内定後、
初詣で願いを込めたお守り。
自分にとって縁の深いものです。

山口 凌河 / YAMAGUCHI RYOGA
【出身地】
茨城県
【所属】
関彰商事株式会社
(2019年 東洋大学社会学部社会福祉学科 卒業)

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記事の内容は取材当時(2020年1月)のものです。