厳格な歩形(フォーム)のルールが定められており、
単に速さだけでは勝負に勝てない競技、「競歩」。
五輪では20kmと50kmの部門があり、
そのどちらもが過酷を極める。
各選手の強みや戦略の秘密を探り、
競歩を100倍楽しく観戦しよう。
競技スケジュールをチェック!
出場選手 | 内容 | 日時 |
---|---|---|
池田向希 | 男子20km競歩決勝 | 8.5(木)16:30-18:05 |
川野将虎 | 男子50km競歩決勝 | 8.6(金)5:30-10:00 |
50km競歩日本代表
川野選手のイチオシ!
競歩はマラソンと異なり、審判によって歩行のフォームが厳しくジャッジされる競技。反則が続くと失格になってしまいます。反則を避けるために必要となるのが、正しいフォームを維持すること。しかし、勝負を仕掛けるときやスピードをゆるめるときにフォームが崩れやすいため、レッドカードを受ける人が出てきます。そのため私は体幹を鍛え、安定したフォームで走り切るためのトレーニングを積んできました。練習のたびに自分の歩く姿を動画で撮り、確認し、フィジカルトレーニングも行いながらフォームを修正していく地道な取り組みによって、レース中どんなペースでも崩れないフォームを作ってきました。また、距離歩などのスタミナ練習と並行して、あらゆるレースパターンを想定した実戦練習も行いました。苦手な練習があっても、自分のレベルアップと安定したフォーム作りのため、果敢に挑戦しました。その結果、東京五輪の代表に内定したレースではレッドカード0枚でゴール。今までの練習が結果につながり、大きな自信を得られたレースになりました。選手一人ひとりに作り上げてきたフォームがあるので、練習の積み重ねを想像しながらレースを観ていただきだいです。
川野 将虎(かわの まさとら)・・・
静岡県出身/総合情報学部 総合情報学科 3年
(2019年12月取材時)
20km競歩日本代表
池田選手のイチオシ!
レース中の選手同士の駆け引きが見どころのひとつです。自分の得手不得手や他の選手のデータ分析をもとに、勝負を仕掛けるタイミングを事前に決めているのですが、必ずしもプラン通りに進められるとは限りません。相手の戦略や自分の体調などを考慮して、臨機応変な判断も必要になります。私は入部当初、マネージャーを兼務していたのですが、チームを支える裏方の業務や他の選手のコンディションチェックを務めたことで視野が広がり、観察力が磨かれました。この経験を生かして、レース中には相手選手の表情から状況を察知して効果的に勝負を仕掛けます。私が他の選手と競っているときは、ぜひその表情にも注目してみてください。
池田 向希(いけだ こうき)・・・
静岡県出身/経済学部 経済学科3年
(2019年12月取材時)
誰よりも速く、反則なく進む
勝利のカギは正しいフォーム
レッドカードを回避しながら、エネルギーの消耗を抑えて効率的に歩行するためには、正しいフォームの維持が重要です。理想とするフォームは選手の身長や筋肉量、柔軟性などによって異なるため、各々が身体的特長を生かしたフォームを構築しています。視覚的にわかりやすいのが、ストライド(歩幅)とピッチ(足の回転数)。身長も足も長い選手は1歩1歩の歩幅を大きくするのに対し、小柄な選手は足の回転を速くすることで高い推進力を実現しています。選手による差異はもちろん、同じ選手でもレースの展開によって変化するので、ぜひ着目してください。

「歩く」競技なのに普通に歩けない?
休憩は立ち止まるのみの過酷なルール
競歩には、「両足が同時に地面から離れることなく、前足は接地の瞬間から垂直の位置になるまで、まっすぐに伸びていなければならない」というルールがあります。これが競歩の定義であり、「走る」こととの区別になります。では、レース中、日常生活における普段の姿勢で歩行するとどうなるか。おそらく膝が曲がっていると判断され、反則になってしまうでしょう。長距離に及ぶレースでも、一度スタートしたら立ち止まって休憩する以外、フォームを崩すことが許されない競技。自分自身と闘う強い忍耐力が求められる、過酷なルールです。

ゴール後に失格になることもある
最後まで目が離せないレース展開
競歩では周回のコースを審判9人でジャッジし、3人からレッドカードが累積すると失格になります。五輪のような大きな大会では、レッドカードの累積数に限らず、ゴール付近での反則は即失格になることも。また、カードが出てから選手や本部へ伝わるまでの時差により、ゴール後に失格が判明することもあります。レース中の駆け引きや懸命に前へ進む選手の姿だけでなく、順位が発表されるまで結果がわからないゴール間際の緊迫感も競歩の面白さのひとつです。

参考:日本陸上競技連盟競技規則 第7部競歩競技、2019年
競歩選手の速度について >>>
競歩選手の歩く速度は時速16キロにもなるといわれています。それは一般的な成人男性の歩く速度の3倍、シティサイクルの平均速度に匹敵する速さ。マラソンに置き換えると42.195キロを3時間以内で走る速さになります。時速8キロを超えると「歩く」より「走る」方が、はるかに少ないエネルギーで目的地に到達できるといわれており、数字からも競歩が「ただ歩く」だけの競技ではないことがわかります。
完歩することの難しさについて >>>
「最も過酷な陸上競技」といわれる競歩。ルールによる失格や過酷な体力の消耗による歩行困難などから、世界大会レベルのレースでも1割の選手が完歩できないといわれています。2015年の世界陸上北京大会、男子50キロ競歩では参加者54名のうち16名もの選手がゴールできなかったことも。完歩することの難しさが競技の厳しさを物語ります。
参考: NHK SPORTS STORY、2018年/講談社現代新書 「時速7キロ」ウォーキングのすすめ、2019年/World Athletics Championships, 50 Kilometres Race Walk men, 15th IAAF World Championships、2015年
50km男子
【世界記録】
3:32:33
(フランス/ヨアン・ディニズ)
【アジア記録】
3:36:06
(中国/虞朝鴻)
【日本記録】
3:36:45
(日本/川野将虎)
川野 将虎
- 【近年の主な戦績】
-
2019年 第103回日本陸上競技選手権大会50㎞競歩 2位 2019年 第58回全日本50㎞競歩高畠大会 優勝 - 【自己ベスト】
- 3:36:45(日本1位)
(2019.10 第58回全日本50㎞競歩高畠大会)

20km男子
【世界・アジア記録】
1:16:36
(日本/鈴木雄介)
池田 向希
- 【近年の主な戦績】
-
2018年 第28回世界競歩チーム選手権 優勝 2019年 第102回日本選手権20km競歩 2位 2019年 第43回全日本競歩能美大会 3位 2019年 第17回世界陸上競技選手権大会 6位 2020年 第103回日本選手権大会20km競歩 2位 2020年 第44回全日本競歩能美大会 優勝 - 【自己ベスト】
- 1:17:25(日本4位)
(2019.3 第43回全日本競歩能美大会)

※競技&選手DATAは2020年3月現在のデータです。