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〈法〉の多様性とその可能性を探る

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シンポジウム

〈法〉概念の時間と空間:〈法〉の多様性とその可能性を探る

2012年12月15日(土)14時より、国際哲学研究センター第2ユニット主催シンポジウム「〈法〉概念の時間と空間 ――〈法〉の多様性とその可能性を探る」が東洋大学白山キャンパス6号館2階6217教室において開催された。中国法、インド法、イスラーム法、ギリシア法の各領域で第一線で活躍する研究者らが一同に会し、〈法〉の概念そのものの多様性と可能性について、多角的な視点から議論が交わされた。

主催する当センター第2ユニット・プロジェクトリーダーの山口一郎の開会挨拶の後、同じく第2ユニット研究員で当シンポジウムの実質的な責任者である沼田一郎より趣旨説明がなされた。

このシンポジウムの意図を確認するためには、その開催主旨をそのまま引用するのがよいだろう。「冷戦終結後の世界は米ソという対立軸を失って、多元化・流動化した。また通信手段と移動手段の発達によって、人・モノ・情報が地球上を自由に移動していると言ってよいであろう。しかしながら、国家や民族のアイデンティティがことさらに強調され、自らの常識や日常感覚の通用しない場面に遭遇することも少なくない。およそ人間の生活する空間には〈法〉が存在するが、しかしながらその現象形態は極めて多様である。私たちは西洋法に由来する法体系のもとで生活していながら、それとは異なる日本の伝統的な法意識から自由ではない。同様のことが世界各地の諸国家諸民族において経験されているとすれば、今一度〈法〉の諸形態を知ることが必要である。世界に目を向けざるを得ない今の私たちにとって、〈法〉を改めて問い直し、その多様性を善く理解することが求められていると考え、今回のシンポジウムを企画した次第である」。

こうした意図に応え、計5名のパネリストの報告があった。

まず、中国現代法を専門とする北海道大学大学院法学研究科教授の鈴木賢氏の報告「中国的法観念の特殊性について――非ルール的法のゆくえをめぐって――」では、2008年の許霆事件を題材にし、現代中国にける法観念の特殊性が論じられた。そこでは、現代中国において、法文解釈に忠実な形式的正義よりも世論や社会通念を重視した実質的正義に重きを置く点、法と政治とが未分化なかたちで連続している点、さらに帝政期よりつながる法の「非ルール的性格」など、近代西洋法とはかなり異なったかたちで〈法〉観念が形成されていることが示された。

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続いて、インド古代法を専門とする当センター研究員で東洋大学文学部インド哲学科准教授の沼田一郎が「古代インドにおける倫理と社会規範――ダルマ(dharma)と〈法〉概念の接点――」と題した報告を行なった。ここでは、「法」と訳されるサンスクリット語の「ダルマ」の多様な意味範囲を系統的に理解するために、その意味の展開を歴史的にたどる試みがなされた。とりわけ『リグ・ヴェーダ』、ウパニシャッド、ダルマ・スートラ、さらには『マヌ法典』などでダルマがどのように主題化されてきたかが示され、このような歴史的展開や社会背景を視野に入れて「ダルマ」の多義性および〈法〉との接点を探る必要性が指摘された。

三人目の報告者は、桜美林大学リベラルアーツ学群専任講師でイスラーム法を専門とする堀井聡江氏である。堀井氏は「イスラームにおける法の概念」と題した報告を行ない、一方で、神授法たるシャリーアと実定法としてのカーヌーンとの差異を中心に、イスラームにおいて〈法〉がどのようにカテゴライズされているかを明快に示し、その後、こうしたカテゴリーが歴史的にどのような変容をこうむることになったのかを指摘した。その他の発表に比して、〈法〉と〈神〉ないしその神学的基盤がクローズ・アップされる興味深い発表であった。

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第四に、インド仏教学を専門とし当センター研究助手を務める堀内俊郎から「仏教における法概念の多様性――思想史的観点から――」との発表があった。サンスクリット語の「ダルマ(dharma)」に端を発し中国で「法」と訳された語は、仏教においては、多義性をはらみつつも、Lawという意味での「法」ではなく、主に、「教え」ならびに「もの・存在物」を指す。堀内研究助手は、インドの仏教思想史を概観し、こうした独特の〈法〉概念が、初期仏教から、アビダルマ仏教、大乗仏教において、どのように解釈の変遷をたどってきたのかを明解に示した。

最後に、古代ギリシア・ローマ法を専門とする東京大学大学院人文社会研究科西洋古典学研究室教授の葛西康徳氏より「古代ギリシアにおける法(Nomos)の概念について――とくに立法および立法者に焦点を合わせて――」という発表がなされた。ギリシア法は西洋法かという大胆な問題提起のもと、プラトン『法律』やデモステネスを中心とする法廷弁論資料を題材にし、「立法」および「立法者」という視点からの古代ギリシアの〈法〉の分析が試みられた。全体を通じて「西洋」法という概念を相対化するための示唆に富む視座が得られた。

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その後の全体討論では各パネリスト間での質疑応答がなされたほか、フロアからの活発な質問が出された。とりわけ、遠方からもインド法や比較法などを専門とする研究者の参加があり、有意義な意見交換がなされた。ダルマ、シャリーア、ノモス、法、一つの語に訳されるものが、さまざまな時代、場所において、さまざまな経緯をたどり形成されてきたのか――その内実の一端を共同で開陳するきわめて有益な機会だったと言えよう。

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