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アフリカの少数民族に見る価値観の多様性 ジェンダー平等のために必要なこと

アフリカの牧畜民サンブルの社会では、性別や年齢によって社会的な役割がある程度、決まっています。そのことは昨今のジェンダーレスを尊ぶ風潮とは合致しないように見えますが、私たちが彼らの社会から学べることはたくさんある、と国際学部国際地域学科の中村香子准教授は言います。SDGsが謳うジェンダー平等を実現するために本当に必要なことは何か、お話を伺いました。

アフリカの牧畜民サンブルの社会では、性別や年齢によって社会的な役割がある程度、決まっています。そのことは昨今のジェンダーレスを尊ぶ風潮とは合致しないように見えますが、私たちが彼らの社会から学べることはたくさんある、と国際学部国際地域学科の中村香子准教授は言います。SDGsが謳うジェンダー平等を実現するために本当に必要なことは何か、お話を伺いました。

01

等身大のケニアと彼らの文化を知るために

研究対象としてケニアのサンブル民族に注目されるようになったきっかけを教えてください。

以前、会社員だったころに観光でケニアを訪れたことがきっかけです。日中は雄大な自然と野生動物を見てまわり、夜にはホテルでゆっくりと食事をするという贅沢な観光でした。私はその日々を満喫しましたが、予想外の収穫だったのは現地のガイドさんからいろいろな話を聞けたことでした。そのなかの一人は、私の帰り際に「ケニアのほとんどの小学生は象を見たことがない」ということを教えてくれました。観光客はケニア人の生活のほんの一部しか見ていない―私はそのことに気づき、彼らの文化や価値観をもっと知りたいと思うようになりました。そして、医療・人道支援を行う国際NGOに転職してケニアに赴任しました。

ケニアでは緊急医療援助や学校建設に従事しましたが、そのなかで牧畜民サンブルの人々と出会い、彼らの故郷を訪問するようになりました。彼らには独特の社会規範があって、それは私たちの価値観とは必ずしも一致しません。そのため、彼らがほんとうに必要としている支援を行うには、その価値観を理解する必要があると考え、研究の道に進んだのです。

独特の社会規範とはどういったものでしょうか。


fig.サンブル社会の年齢体系

サンブル社会には、年齢と性別によって人々をいくつかのカテゴリーに分ける年齢体系というシステムがあります(fig.「サンブル社会の年齢体系」参照)。男性は割礼を受けるまでを「少年」、そのあとの約15年間を「モラン(戦士)」として過ごし、結婚を機に「長老」となります。一方、女性は「未婚」と「既婚」に二分されます。それぞれのカテゴリーには特有の社会的な役割があり、たとえば女性には家畜の所有権はありませんが、既婚女性は家畜のミルクを搾ってそれを管理し、販売したり家族に分配する権限を持っています。


fig.サンブル社会の年齢体系

このような社会システムは東アフリカの多くの社会にみられますが、現在、この体系を特に強く維持しているのがマサイとサンブルです。真っ赤な布と華やかなビーズの装身具をまとった「マサイの戦士」をご存じの方も多いのではないでしょうか。サンブルはマサイ系の民族のひとつです。ただし「戦士(モラン)」といっても現在では戦闘はほぼありません。美しく着飾った青年たち(モラン)は祝祭のときの歌やダンスの花形で、サンブルの中でも憧れの存在です。こうしたモランの姿は、ケニアの観光を世界的に宣伝する場面でもよく用いられています。「伝統的」で「エキゾチック」な彼らの姿は、外国人に対して高い商品価値があります。それを観光業者やケニア政府は、「雄大な自然」や「野生動物」と同じようにPRに利用しているのです。

02

サンブルの女性に芽生えた新たな人生観

サンブルの人々も自分たちの存在の貴重さを認識しているのでしょうか。

サンブルの多くの人が何らかの形で観光業に関与して現金収入を得ていますので、もちろん彼らは自分達の「伝統」が観光客に「売れる」ことを理解しています。ただ、最近は学校教育などの影響によって、彼ら自身の価値観が大きく変化しています。たとえば、「モランの時代が約15年間も続くのは長すぎる」「早く結婚したい」と考える青年が出てきたり、「結婚しなければ家畜の所有権を持てないのはおかしい」と考える男性も増えています。そのために年齢体系は、人々が意識して維持しないと存続が困難なものになりつつあります。

女性の価値観にも大きな変化が起きています。サンブル社会では従来、女性の結婚相手や結婚時期は本人ではなく父親がすべてを決定してきました。これは国際的には「強制婚」とよばれるものですが、サンブルの人々はこれを当然の伝統であると考えてきました。また、彼らの価値観では、未婚期と既婚期が明確に分かれていることが美しく、女性たち自身も結婚とは、少女から大人の女性に生まれ変わる重要な儀礼だと考えています。しかし、最近では学校教育を受ける女性が増えてきてその結婚が遅くなる傾向にあり、父親の裁量によらない恋愛結婚を望む女性が増えてきました。独身のまま出産する女性もいます。サンブルでは割礼を受けている独身女性を「スルメレイ」と呼びます。

「スルメレイ」は、未婚女性と既婚女性の間に位置するわけですね。
そうです。未婚のままで子どもを産む女性は、ほんの20年前まではサンブルの社会には存在しませんでした。この新しい女性たちは、経済的に協力できる夫がいないために困窮しがちです。けれども、スルメレイになる女性は自立心が強い傾向があり、ビーズ細工やお酒づくり、炭づくりなどの仕事をして収入を得ています。さらに彼女たちは近年、自助グループを結成し始めました。グループでまとまって活動すれば、材料の仕入れや製品の販売などの点でも有利ですよね。ただ、まだお金の扱い方に関する知識が乏しいため、持ち寄ったお金を単に分配するだけだったり、管理のしかたが悪くて使い込みが起きたりして、せっかくの活動が経済的自立につながらないケースが散見されます。

03

欧米的な価値観は必ずしも絶対ではない

彼女たちはどういった支援を必要としているのでしょうか。

スルメレイのグループは国際NGOなどからさまざまな支援を受けていますが、現地の価値観に合わない画一的な支援が行われがちなところに課題があると感じます。支援する人たちは自分たちの活動によってサンブルの○人(人数)の女性を「強制婚から救った」「経済的に自立させた」などと語りたがりますが、そもそもサンブルの人たちは強制婚を含めた自分たちの社会を否定していません。むしろ貴重な年齢体系を維持していることを誇りに感じています。さらに観光の文脈では、「伝統的な生き方」に経済的な価値があることも十分に理解した上で、表面上は支援される立場を演じながらも、安易にプロジェクトの目的どおりの変化を目指すことなく、慎重に自分たちの進むべき道を峻別しているところもあります。女性の「経済的な自立」といっても、彼女たちは周囲の人々との社会関係のなかで生活していることを忘れてはなりません。

SDGsではジェンダー平等を謳っています。私はそれをすばらしいものと考えていますし、サンブル社会のすべての伝統や価値観が守られるべきだなどと思っているわけではありません。ただ、欧米的な価値観が絶対に正しいとは限りません。スルメレイは自分たちの声に耳を傾けてほしいと思ってはいても、男性のように生きたいとは思っていないのです。あるべき支援とは、結局は個々人と丁寧に向き合うしかないのかもしれないですね。SDGsの思想はすばらしいものですが、それが誰に対しても、いつでも正解であるとは限りません。一方的な価値観によって画一的な支援を押し付けるのではなく、まず、相手の多様性を理解し、それを尊重しようと努めることが、ジェンダー平等を実現するための起点になるのではないかと考えています。

中村 香子

国際学部国際地域学科 准教授
専門分野:アフリカ地域研究、文化人類学
研究キーワード:アフリカ、ケニア、マサイ、牧畜民、民族衣装、観光と民族文化、ジェンダー