【特集】社会とのつながりが弱い人々の存在を 技術で可視化して支援につなげる

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2021.03.22発行

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社会とのつながりが弱い人々の存在を 技術で可視化して支援につなげる

社会には支援の手を必要とする人たちがいます。しかし、そういった人たちのなかには社会とのつながりが弱く、支援のネットワークからもれてしまう人がいます。社会学部社会福祉学科の金子光一教授がセンター長を務める福祉社会開発研究センターでは、学際的な研究でこの課題の解決に挑んでいます。

summary

  • SNSのビッグデータを福祉に生かす
  • 分身ロボットを使ったコミュニケーションの意義
  • 歴史を学ぶことから始まる新たな未来図

SNSのビッグデータを福祉に生かす

福祉社会開発研究センターの『つながりがある社会を支える価値と支援システムに関する研究』では、人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用しているそうですね。

私たちの研究では「社会的つながりが弱い人」を支援の対象にしています。社会には障がいや認知症などによって日常生活に制約を受けながらも、必要な支援を受けられていない人たちがいます。支援の手が届かない理由の一つとして、そういった方々は家庭以外の世界との接点が少ないことが多く、行政や福祉団体がその存在を十分に把握できていないのです。そこにAIやICTといった新しい技術を活用できないかと考えています。

具体的にはどのように活用するのでしょうか。

研究テーマの一つがビッグデータの活用です。例えば、家庭に引きこもりがちになる場合、対面のコミュニケーションは少なくなりますが、SNSを利用されている人は結構いらっしゃいます。そこで発信内容を解析すれば、どこに・どのような支援を必要とする人がいるのかが把握でき、支援につなげられるのではないかと考えました。
技術的な研究は理工学部の教員が中心になって進めていますが、データ解析にはプライバシーの問題などもあるので、法律や制度設計の専門家もチームに加わっています。東洋大学は文理問わず多様な教員が在籍し、学際的な研究ができることが強み。福祉の現場でどう活用するかはこれからの話ですが、新しい技術には希望が持てると思っています。

分身ロボットを使ったコミュニケーションの意義

支援が必要な人を探し出すためにAIやICTを活用するというのは新しい視点ではないでしょうか。

支援が必要な人を探し出すためにAIやICTを活用するというのは新しい視点ではないでしょうか。

福祉の分野では先進的な研究と言えるでしょう。社会にはいろいろな情報が溢れていますが、人間は見たことがないものに対して、なかなか理解が進まないものです。だからこそ、対面以外にも、SNSなどのコミュニケーションツールを通して知ることから始めるのが大切だと考えています。
そのほかにもICTを活用した研究では、社会学部の教員のチームが分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を使った遠隔コミュニケーションの効果に関する研究をしています。オリヒメを操作するのは重度の障がいで寝たきりの人です。私たちはオリヒメを通して、自宅にいるその人と話すことができますし、カフェで接客をしてもらうこともできます。分身ロボットの活用で障がいのある方の社会参画の機会が広がり、多くの人たちが障がいに対して理解を深めてほしいと思っています。

家の外に出られなかった人たちが技術によって社会とつながれるのですね。

障がいのある方のなかには、自分が他の人からどう見られているかを気にして外に出ようとしない方、差別や偏見の目をおそれて社会に出ることを躊躇ってしまう方が少なくありません。それは個人の問題ではなく、社会の問題なので、彼らを受け入れられるように社会が変わっていかなければなりません。そのためのきっかけを、AIやICTの技術の力で作りたいと思っています。SNSやロボットを接点に、人と人がつながってお互いを知る、それが支援の第一歩になるのではないでしょうか。

歴史を学ぶことから始まる新たな未来図

福祉は専門家の活躍も大切ですが、社会を構成する一人ひとりが考え方を新たにしていかなければなりませんね。

最近は、障がいのある人もない人も平等だというノーマライゼーションの概念が広がっています。まずは私たちが持つ差別や偏見の意識を変えなければなりません。そのためには歴史を学ぶことです。元来、日本人は世間体を気にして、障がいがある方と距離を置いてきた歴史があります。ハンセン病患者の隔離や断種はその象徴ですし、姥捨て山や赤子殺しの民話も実際に起きた出来事がもとになっています。歴史に学ぶと言うと、偉人にばかり注目が集まりがちですが、政治や社会に踏みにじられた人たちの歴史こそ知るべきです。
いま新型コロナウイルス感染症で新たな差別や偏見が生まれています。このようなことを繰り返していては、平等で持続可能な社会を作ることはできません。温故知新の精神で歴史に学び、未来に向けた新しい考え方を持ってほしいと切に願っています。

金子 光一

社会学部社会福祉学科 教授
専門分野:社会福祉学、社会福祉史
研究キーワード:社会福祉の歴史、社会福祉思想、イギリスの社会福祉
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