理学療法やICTを駆使して介護問題の解決に挑む

プロのコメディアンとして活動後、高齢者福祉施設に勤務しながら介護福祉士、理学療法士の資格を取得。その後、国際医療福祉大学大学院博士課程修了。訪問リハビリテーションに従事した後、宇都宮短期大学、聖隷クリストファー大学の教員を経て、2019年より現職。

TOYO PERSON

AIを活用した介護システムの構築

今後ますます少子高齢化が進んでいく日本において、介護問題が深刻化することが予測されている。そのような中、ライフデザイン学部※教授の古川和稔は介護の現場で培った経験を生かし、介護の質を高めるべく研究を行っている。
「私はかつて高齢者介護施設で勤務しており、介護という仕事にやりがいを感じていました。しかし、ある時、車椅子からずり落ちてしまうためベルトで固定されている要介護者の姿を見て、他に方法がないものかと疑問に感じたのです。そのことを理学療法士の方に話すと、車椅子で姿勢のズレを防ぐシーティングという手法があることを教わりました。これならベルトが無くても安全に車椅子に座ってもらうことができる。目から鱗が落ちた私は、他にもさまざまな疑問を理学療法士にぶつけ、介護に役立つ専門的な知識を学びました。そして、介護職を続けながら専門学校に通い、30代後半で理学療法士の資格を取得したのです」
その後、より良い介護のあり方を模索し続けた古川は、大学院へ進学し、研究者の道へ進む。現在の主な研究テーマは、ICTを活用した介護システムの構築だ。
「要介護高齢者はデイサービスや訪問介護など複数の介護事業者を利用しているケースが多くあります。しかし、いまだに連絡帳のようなアナログな方法で引き継ぎを行うなど、事業者間で十分に情報共有ができていないのが現状です。そこで、食事や運動、生活習慣などのデータをアプリで記録し、担当ケアマネージャーに伝達するシステムを考案しました。ただ、膨大なデータをケアマネージャーが管理するのは難しい側面もあり、AIで分析を行い、状態が悪化しそうなケースを検知した場合にアラートを出す仕組みを、本学理工学部と共同で開発しています」

AIを活用した介護システムの構築

介護職の社会的地位向上のために

要介護高齢者の増加に対応するには、介護従事者の確保が必要だが、実際には人手不足に悩まされているのが現状だ。それを解消するには介護職の賃金だけでなく、社会的地位を向上させることが必須だと古川は考えている。
「介護福祉士が理学療法や基礎医学などの知識も学び、専門性を高めることが重要です。そのためにも介護福祉士を対象とした勉強会や教育プログラムの作成に取り組んでいます」
また、専門家が積極的に介入し、要介護者を健康な状態に回復させる経験こそ、介護従事者がやりがいを見出すためにも重要だと古川は語る。
「ある高齢者が介護施設に入所してきたのですが、介護福祉士、医師、栄養士、薬剤師など多職種が連携しながら栄養管理やリハビリを施したことで、状態が著しく回復し、在宅復帰が可能となりました。ご本人は施設で生涯を終えることを覚悟しており、『再び自宅で暮らせるようになるとは思わなかった』と大変喜んでくれました。同時に介護職員たちも大きな充実感を覚えたようです。在宅復帰に関わった介護従事者の離職率は下がる傾向にあります。このように、高い専門性を持って従来の介護の枠を超えた役割を担うことが、介護職の地位向上につながると考えています」
多様なアプローチで研究に取り組む古川だが、その狙いは一つだ。
「研究の成果を現場に還元し、介護問題の解決に貢献できれば幸いです」

※ライフデザイン学部は2023年度から福祉社会デザイン学部に改組されます

介護職の社会的地位向上のために

取材日(2022年8月)
所属・身分等は取材時点の情報です。