身の回りにある湖、川、海からすくった一滴の環境水の中には、ベースとなるH2Oの成分に溶け出した無機塩類や可溶性有機物、さらに不溶性有機物などの懸濁物質が存在するほか、多数の微生物(主に細菌、古細菌、単細胞の真核生物)も棲息しています。自然環境中の微生物は、実験室の微生物と比べてサイズがずっと小さいですが、体積当たりの表面積が大きいという特徴を持っています。そのため細胞膜を通して効率的に周りの物質を取り込み、自身の代謝で別の物質に作り変えることができます。この構造を生かして環境微生物には、大きく3つの役割があります。それは、「汚染物質を分解すること」「一次生産者として働くこと」「さまざまな物質循環を駆動すること」です。環境微生物は、驚くほど多様性にあふれ、数も多いため、ほとんどの汚染物質を巧みに分解する能力を備えています。しかし、環境微生物の99.9%以上は実験室で培養・単離することができません。古典的な培養法や顕微鏡観察では大部分の環境微生物の同定ができないため、近年「非培養法」による研究が進められています。「非培養法」とは、主に分子生物学的手法による微生物の遺伝情報をターゲットにする方法です。例えば、SSU rRNA遺伝子や機能遺伝子、ゲノム・メタゲノムなどを調べることによって、環境微生物の系統群、機能性、及び多様性に関する情報を把握することができます。水圏環境微生物生態学研究室では、主に水圏環境に棲息しているメタン循環及び窒素循環に関わる微生物の研究に取り組んでいます。まだまだ未知な部分が多い環境微生物ですが、水処理分野などに応用できる単離株や集積培養の数も日々増え続け、さまざまな知見や情報が集まってきています。今、培養できない微生物も、近い将来、環境微生物生態学の発展によって培養できるようになるでしょう。

李 沁潼助教生命科学部 応用生物科学科 水圏環境微生物生態学研究室
- 専門:微生物生態学、生物科学、環境農学
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