日本では「炎症性腸疾患」の患者数が増加し続けています。炎症性腸疾患には、「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」が含まれ、両疾患とも消化管に重度の潰瘍と炎症を起こすことが特徴です。主な症状は、下痢や血便、腹痛や発熱などで、QOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼします。炎症性腸疾患は、さまざまな遺伝的要因や、後天的な環境的要因が複雑に絡み合い、免疫反応異常が起こるといわれていますが、いまだに発症原因は不明です。日本にはもともと、炎症性腸疾患の患者さんはいなかったことから、食生活の欧米化も原因の一つであると考えられています。

現在、研究チームでは、炎症性腸疾患の患者さんや腸の健康に不安のある方々に向けた研究に取り組んでいます。具体的には、体内にある「オートファジー」という細胞内分解機構に着目し、腸の炎症緩和を目的とした食品開発を進めています。オートファジーは、細胞の中で不要物を分解して、アミノ酸をはじめとするエネルギーに変えるシステムであり、私たちの生命維持に必要不可欠なシステムです。このオートファジーは、腸炎が起こっている状態では機能が低下することがわかっています。

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これまでの研究においては、約3000種類を超える食品や生薬由来のサンプルの中から、機能が低下してしまったオートファジーを活性化させ、腸炎を緩和する物質を発見しました。実験では、実際に患者さんの細胞を単離し、オルガノイドという技術を用いて、サンプルを3D的に培養し、ミニ臓器を作成しています。マウスによる実験だけではなく、患者さんの特性を残した細胞を使った実験を行うことで、より安全で精度の高い食品の実用化を目指します。今後は、副作用の少ない治療法開発も視野に入れ、人々の腸の健康増進に役立てたいと考えています。

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安枝 明日香助教食環境科学部 健康栄養学科

  • 専門:臨床栄養学、炎症性腸疾患
  • 掲載内容は、取材当時のものです