社会学部メディアコミュニケーション学科は、メディア業界に関する様々な授業を行っています。そのひとつが2年生の必修授業、「メディア・キャリア論」です。新聞社、テレビ局、出版社、映画や広告会社、さらにインターネットの分野までメディア業界をリードする有名企業の幹部の方たちがゲストで講義してくれます。
今、メディア業界は激動の時代を迎えています。講師の方たちはそれぞれの分野の仕事の内容、直面している課題と新たな取り組みなどを豊富なデータとともに説明してくれます。メディア業界への就職を目指す学生にとっては、第一線で活躍する幹部の方たちのお話を直接聞くことができる、貴重な機会となっています。

現役の社長や役員も講師として登場

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メディアコミュニケーション学科では、大学での4年間で、情報学、社会情報学、マスコミ学の3つの領域について学びます。具体的には、メディアの特性、メディアが発信する情報の分析、メディアが生み出すコミュニケーションの効果などについて、その理論と実態、歴史を学びます。
だからと言って難しそうな講義ばかりではありません。映像に興味のある学生には実際に短い作品を作る「映像制作」の授業があります。記者や編集者に関心のある人向けには、新聞記者OBの方が直接指導してくれる「マスコミ文章作法」という授業もあります。さらにコンピューターに関心のある人にはコンピュータプログラミングの授業など、実践的な技能を身につけるための授業も充実しています。
さて、専門科目である「メディア・キャリア論」は、2年生の必修科目です。大学2年生は就職活動の準備をするのはまだ早いですが、メディア業界について当事者から直接、お話を聞くことで、将来について考える機会を持ってもらうことがこの授業の目的です。2017年度にこの授業を担当している薬師寺克行教授は、朝日新聞社の元政治部長、論説委員で2011年に東洋大学教授に就任しました。全15回の授業のうち、13回はゲスト講師が講義を行います。朝日新聞社のほか、日本経済新聞、岩波書店、文芸春秋社、講談社、日本テレビ、Yahoo! Japan、博報堂、東宝、さらには吉本興業と皆さんが知っている有名な会社の幹部の方たちが自らの経験を踏まえて、とても刺激的なお話をしてくれます。

新聞が社会に果たす役割を知り
これからの新聞のあり方を見つめる

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2017年度の授業で最初のゲストは、朝日新聞社代表取締役社長の渡辺雅隆さんでした。冒頭、朝日新聞社の組織や活動を説明する動画が上映されました。みなさんは新聞社には新聞記者しかいないと思っていませんか。実は新聞社にはとても多くの種類の仕事があります。新聞紙面に掲載されている広告を担当するひともいます。甲子園の高校野球も新聞社が主催です。また新聞の発行以外に、絵画などの展覧会やクラシック音楽などの演奏会を開催したりします。また、最近は紙だけでなくインターネットを使った情報発信にも力を入れています。
渡辺さんは、「若い世代で新聞離れが進んでいると言われますが、実は、みなさんがインターネットなどを通じて目にしているニュースは、もともと新聞社やテレビ局などが作ったものです」と説明しました。そうです。ネットのニュースサイトに載っているニュースの多くは、新聞社やテレビ局が作ったものです。知っていましたか?
さらに渡辺さんは、「インターネットにはだれが書いたかわからない情報があふれています。こうした出所不明の情報はどこまで信じることができるでしょうか」と問いかけました。具体的に2016年4月に起きた熊本地震の直後に「動物園からライオンが逃げた」というデマ情報がネット上で拡散して大騒ぎになり、動物園の業務を妨害したとして情報の発信者が逮捕されたという事件を紹介してくれました。
このニュースは一体、だれが書いたものなのかというニュースの発信元を意識して情報に触れることが大切です。同時にSNSで間違った情報をリツイートして拡散することがいかに危険なことであるかということを渡辺さんは強調しました。
また、2011年3月の東日本大震災の際には、現地への交通が遮断された状況の中で多くの記者がさまざまな手段で被災地に駆けつけ、不眠不休で取材して原稿を送り続け、情報の精度を高めていったことを、映像を通じて紹介してくれました。
「地震発生直後は、テレビも携帯電話も通じず、被災者の方々にとっては、新聞が唯一の情報源でした。そんな状況下で記者たちは被災者の方々に支えられ、たくさんの人々の人生に触れました。現地で今、何が起きているのかを伝えていくことが記者にとっては使命なのです」と当時を振り返りました。

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「メディアは権力を監視するウオッチドッグ(番犬)であるべき」という言葉を知っていますか。政府や地方自治体、大企業などを監視し、問題があれば批判するのが新聞やテレビの役割だという考え方です。渡辺さんは、こうした新聞の役割は変化すべきだと話しました。
「新聞の取材対象は森羅万象です。記者は読者の目となり、耳となって現地で取材を重ね、隠された事実を発掘していく『調査報道』を重視しています。そして、取材を通じて『事実』をいかに積み重ねていくかということが大切なのです。新聞が権力を批判するだけの時代は終わりました。これからは、私たちが直面する世界的な課題をどのように解決していけばよいのかを、読者とともに模索し、答えを生み出してかなければならないのです。つまり“ソリューション・ジャーナリズム”の時代になったのです」
「ソリューション」というのは、「問題の解決策」というような意味です。ですから、「ソリューション・ジャーナリズム」というのは、これまでのように問題を見つけ出し権力を批判するだけでなく、ではどうすればいいのかについて、読者と一緒に解決策を考え提起しているようなジャーナリズムという意味です。
朝日新聞社は2016年から「ともに考え、ともにつくる」という企業理念を打ち出しています。渡辺さんは、児童虐待やいじめなどをテーマとする連載記事の中で特に読者の反響が大きかった「小さないのち」という記事を紹介しました。また、世界の人々とともに地球が直面する環境問題について話し合う「朝日地球会議」といった国際フォーラムをはじめ、社会や読者とともに社会課題に向き合い、よりよい未来をデザインしていくための解決の糸口を探る「未来メディアプロジェクト」といった活動を通じて、新聞社としての新たな道を歩んでいることを紹介し、講義を終えました。

メディアの仕事には社会を変えていく役割がある

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薬師寺教授は、この講義の目的について、次のように語ります。
「メディアの仕事には、社会をより良くするために変えていくという役割があります。それを理解し、そこで働いてみたいと思う人が一人でも出てくれば、社会はよくなるでしょう。それが大学での学問の目的でもあり、多くの企業が望んでいることだと思います」
メディアコミュニケーション学科には毎年、160名以上の学生が入学し、卒業するときにはおよそ4割が情報・通信分野を含む広義の”メディア業界”へ就職しています。
「メディア・キャリア論」の講義は、高度情報化社会におけるメディアのあり方について、情報そのものについて学問としての理解を深め、さらに、メディア業界の現状と未来について考えるきっかけとなっています。

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薬師寺 克行教授社会学部 メディアコミュニケーション学科

  • 専門:メディア論、政治過程論
  • 掲載内容は、取材当時のものです