「食と健康」という私たちの生活に身近なテーマを科学的に実証する林清教授。学問分野としては、いまだに解明されていない事柄がたくさんあるからこそ、研究のやりがいもあれば、大きな期待も寄せられている。好奇心旺盛に、探究心を持ち続け、粘り強く研究に取り組む気持ちを持った研究者を育てていきたいという。

いまだに解明されていないことも多い分野

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何をどのように食べれば健康によいのか。私たちはこの問いの答えを見つけているようで、実は見つけることができていません。「食と健康」さらには「健康長寿」は、人間にとって昔から考えられてきたテーマでした。

人間の身体のつくりは、2000年前と現在とで変わりません。2000年もの歳月の間に、私たちはさまざまなものを食べ、その食と健康への影響を経験的に蓄積してきました。最近では、人間の身体についての研究が急速に進み、健康と食をつなぐ学問が生まれてきたのです。

たとえば、「ヨーグルトは身体によい」と言われますね。これはヨーグルトを食べると腸内にいる細菌の働きが助けられ、腸内の細菌のバランスが整うからです。細菌に関する研究が進み、腸内にはさまざまな細菌が存在することが明らかになりました。腸内の細菌は食べたものの一部をエネルギーに替えたり、毒素や有害物質を排泄し、代謝したりするなど、私たちが生きていくうえで欠かせない働きをします。しかし、身体に有益な善玉菌もいる反面、有害な悪玉菌もいます。近年では細菌を腸内から取り出すことなく、種類や働きによって分類する方法も研究できるようになりました。大腸における腸内細菌の研究はだいぶ進みましたが、大腸よりも重要な小腸に住み着いている細菌についてはまださほど解明されていません。いまだ確立されていない学問分野であり、これから解明されていくことも多いでしょう。

遺伝子研究の世界から食品の世界へ

私はもともと、微生物が生産する酵素の遺伝子について研究していました。遺伝子を換えると、その酵素は優れた働きをします。しかし、自然界に存在する酵素を人間がゼロからつくり出すことは到底できません。現代の最先端技術を駆使しても、人間が自然を超えることはできないのです。それだけ、自然とは複雑で奥深いものなのです。特に、「食と健康」の問題はその最たるものです。それまで研究していた分野とは対極的なところで研究に取り組む面白さを感じて、今では「食と健康」を科学的に実証する研究を進めています。

しかし、この分野の研究は人間を対象とするため、健康を損なったり、生命の危険を脅かしたりするようなことは避けなければなりません。実験は、医学的な視点や倫理的な規定に基づいて行わなければならないのです。動物実験では効果が検証されても、人間では効果が認められないこともあります。また、人間は誰一人として同じ人はいません。これからは、一人ひとりの特性に合わせた食品機能の研究が求められます。身体に良くておいしい食品とは何か、長寿のためにはどんな食生活が必要なのか。そのために必要な食品の機能を考えていかなければなりません。

これからの研究者に求められる姿勢

健康栄養学科で学ぶ人には、食への関心の高さが求められます。加えて、好奇心旺盛であること、深く考えるのが得意であることも重要です。研究に取り組んでも、答えがすぐに見つかるとは限りません。研究の成果が現れるまで長い年月を必要とする場合もあります。ですから、研究者には常に探究心を持ち続け、粘り強く答えを見つけ出していく姿勢が必要なのです。

絶えず進歩する研究の世界。その進歩の度合いが早まり、これからの研究者にはスピード感も重視されます。自分の研究が他の研究者に先を越されることがあるかもしれません。情報化が進み、インターネットを使えば簡単に世界中の情報にたどり着くことができるようになりました。過去の実験データも研究論文も、インターネットを通じていくらでも読むことができます。あふれるほどの情報の中から自分の研究に必要な情報を見極め、半歩先、一歩先に出るつもりで情報を収集・整理していく力を身につけていってほしいと思います。

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林 清教授食環境科学部 学部長 同学部健康栄養学科

  • 専門:食品科学

  • 掲載内容は、取材当時のものです