【著作紹介】アリストテレスの時空論

アリストテレスの時空論

著者:松浦 和也(文学部哲学科 准教授)
出版社:知泉書館
出版年:2018年1月発行
価格:5,000円+税
ISBN:9784862852670
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内容:
「時間とは何か」「空間とは何か」をアリストテレスは『自然学』第3巻・第4巻で集中的に考察している。
それら時空論は,背景として質料形相論やカテゴリー論,可能態・現実態から,さらに四元素説や四原因論と目的論的自然観まで,アリストテレスの哲学的諸概念や自然哲学的理論を基盤に展開されている。著者はテキストを正面に据えて,存在論的な観点からその論理の構造と存在論的な前提を解明する。

『自然学』は多くのトピックを寄せ集めた作品とされ,個別の分析が主流となっているが,著者は第3・4巻を単一の著作と見なし,そこでは運動論を軸に「運動に続くもの」としての無限,場所,空虚,時間が統一的に議論されていることを明らかにする。

古典的テキストの読解には,現代的な問題関心から接近する方法とテキストの歴史的位相と背景を踏まえて読み取る方法があり,とくに自然哲学の領域は強い歴史性をもっている。著者はアリストテレスの知見を再現しつつ,現代的な課題への射程を探究し,時間や空間を哲学的に扱う上で,ニュートン的時空論以外の可能性を検討する意義を示す。本書は現代の時間と空間理解に新たな一石を投じた意欲作である。

知泉書館の紹介ページ

 

教員メッセージ

 誰もが知っているが、正確には知られていない。古代から伝わる伝承にはそのような事柄が多数あり、「真空で物体を落下させると速度は無限大になるから、真空は存在しない、とアリストテレスは考えた」という誤解もその一例である。そのような事柄をテキストに基づき、専門的に再検討するのが、本書「アリストテレスの時空論」である。

 思想史の観点から見れば、古代哲学のテキストには様々なアプローチがあり得る。自説の権威付けのためにそれを引用することもあれば、新しい知見を生み出だすためにそれと対峙することもある。そういった要素は、哲学の歴史的展開を織りなす一側面でもありうる。それに対し、本書が採ったアプローチは、哲学的テキストを哲学的に扱う、というものである。すなわち、アリストテレスの『自然学』の議論を基礎づける存在論的立場はいかなるものか、と問うのが、本書の姿勢である。この姿勢は、古代哲学研究の末席を汚す筆者が、文献と、文献研究そのものの価値に関して格闘することで獲得したひとつの成果であった。

 しかし、入門書的な役割を期待して本書を開いた読者はおそらく専門的な筆者の論述に戸惑いを覚えるだろう。というのも、先行研究批判、論理分析と再構成、ギリシア語のテキスト校訂、といった、筆者が執筆当時に有していた様々な技法を本書に集積したからである。しかし、もし哲学的な事柄に真摯に対峙しようとするならば、「哲学」の外にすらある様々な諸技能を欠いてはその事柄の重大さに押しつぶされてしまうだろう。それゆえ、読者は、特に卒業論文や修士論文に取り組もうとしている学生は、本書の中に含まれる文献学的な手続きや手法を学び取って欲しいと願う。

 とはいえ、この願いが、本書は哲学的にも文献学的にも完成されたものであることを決して保証するものではない。哲学することとは、プラトンが実践したように、対話(ディアレクティケー)であるならば、本書もまた読者によって多様な観点から検証され、批判されるべきものである。疑問点や反論などがあれば是非とも筆者の研究室の扉を叩いて欲しい。哲学が知を愛し求める活動であり、それゆえ常に未完成の状態に留まるものであるならば、諸君らが扉を叩いた瞬間に、本書は完成を迎えるのだから。

 

目次

序論
 本書の目的と方法
 本書の構成
 『自然学』第3,4巻の方法――存在と定義
 『自然学』第3,4巻における「パイノメナ」

第1章 運動の定義
 1 はじめに
 2 エンテレケイアの意味と定義の循環
 3 「可能的にあるもの」の構造
 4 「そのようなものとして」
 5 運動の定義と空間的・時間的延長

第2章 無限論――物体・現実態・可能態
 1 はじめに
 2 『自然学』第3巻第5章の物体観
 3 分割無限における「分割」
 4 分割無限は現実的に存在するか
 5 分割無限の質料性
 6 無限論と運動の概念

第3章 場所論――固有の場所と運動概念
 1 はじめに
 2 場所の要件
 3 「うちにある」と場所のパラドックス
 4 場所の不動性
 5 場所の定義と物体の移動

第4章 空虚論――非存在の論証と物体
 1 はじめに
 2 力学的反論――『自然学』第4巻第8章215a24-216a11
 3 空虚肯定論の報告と批判
 4 「空虚それ自体」の検討――『自然学』第4巻第8章216a26-b16
 5 空虚,場所,運動

第5章 時間論――時間の実在性
 1 はじめに
 2 時間のパラドックス
 3 時間の定義と時間のあり方
 4 運動の定義と今のパラドックス
 5 時間の実在性

結論 アリストテレスの時空論

あとがき

参考文献
索引

[著者] 松浦 和也(マツウラ カズヤ)

1. ギリシア哲学の成立過程をアリストテレスを主要な典拠としながら、それぞれの学派ごとの有機的関係を解体し、背景に潜む一般的通念を明確にするとともに、この時代の哲学における思考方法のバリエーションを具体事例に即しながら取り上げることを目指しています。

2. 人工知能を社会に円滑に実装するために、「社会的人間とは誰か」「一人前の人間はどのような人間か」という根本的問いかけから人工知能の社会的位置づけを模索しています。

 

関連リンク

東洋大学研究者情報データベース(松浦 和也准教授)