MENUCLOSE

【著作紹介】セルバーグ・ゼータ関数 ― リーマン予想への架け橋 ―

著者:小山 信也 (理工学部生体医工学科 教授) 
出版社:日本評論社
出版年:2018年 7月発行 
価格:2,300円+税
ISBN: 9784535603530
所蔵館:川越


内容
数学最大の未解決問題である『リーマン予想』の解決の鍵である「セルバーグ・ゼータ関数」に関する、史上初の解説書。
関連分野が膨大なため初学者にとっては取り組みにくい内容を天下り的な記述を極力排し、ていねいに解説。

日本評論社の紹介ページ

 

教員メッセージ(特別インタビュー)

 ©撮影 河野裕昭

「セルバーグ・ゼータ関数」のご出版、おめでとうございます。 
  山   ありがとうございます
先生は、今年だけで4冊の新著を出版されていますね。
  山 : そうですね。今年は、一般向けの数学書を多く扱っている日本評論社が創立百周年ということで、記念事業として「ゼータの現在」というシリーズを立ち上げました。私が執筆した4冊の新刊のうち、2冊はこのシリーズ内のものです。
ゼータとは、ゼータ関数のことですか。
  山 :
はい。一般的にはその理解で良いと思います。専門家の間では、「ゼータは従来の『関数』の概念を越えたものである」という意味を込めて、敢えて「ゼータ」と呼び捨てにする流儀もあります。
そういえば、先生の研究室名も「ゼータ研究室」ですね。
  山 :  はい。東洋大学に赴任し研究室名を申告した際、親切な方が「ゼータ関数研究室」と直してくれたことがありました。悪気はなかったのでしょうが、私はすぐにクレームを言い、「ゼータ研究室」に戻してもらいました。
出版社の記念事業として取り上げられるということは、ゼータは数学界で注目の存在なのですね。
  山 :
 一般の数学愛好家から最先端の研究者まで、ゼータに関する本は人気が高いですね。
 なぜ、そんなに人気なのでしょう。
  山 :  理由はいくつかあります。まず第一に、研究対象が「素数」という素朴なものであること。
学習指導要領によると、素数は小学5年で習うことになっていますね。中学で素因数分解を習ったことも懐かしいです。
  山 :  そして第二に、現代数学の成果である複素関数論や表現論を用いて「素数がどれだけたくさんあるか」という根源的な問いかけに対する答が得られること。これは「素数定理」と呼ばれる事実です。
大学で専門の数学を学ぶと、ちょうどその応用として理解できるということでしょうか。
  山 :  そうです。数学科の学生が専門課程で学んだことを、素朴な問題解決に活かせる機会は、実はそれほど多くありません。そういう意味でも素数は、数学の学習者にとって貴重な題材なのです。
なるほど。
  山 :  そして第三に、未解決の問題が残っていること。素数定理を精密化する問題は「リーマン予想」と呼ばれ、数学最大の未解決問題と言われています。
リーマン予想については、先生が今年著されたうちの一冊「リーマン教授にインタビューする」が、傑作ですね。未解決問題としての位置づけも良くわかりますし、歴史を踏まえた解説になっていて、初心者にも入りやすいです。
  山 : 何と言っても、リーマン教授の話が直接聴けるわけですから、貴重な機会ですよね。
ええ(笑)。フィクションでありながら、専門的な数学をさりげなく解説しているという、かつてない試みでしたね。
  山 : ありがとうございます。
出版記念サイン会の様子を拝見させて頂きましたが、熱心なファンの方々で埋め尽くされた会場から、熱気を感じました。
  山 :
著作のページには私の公式サインまで載せて頂き、ありがとうございます。「信」のにんべんがゼータ(ζ)になっているのが公式サインです。
このサインは人気があるようですね。先日、先生のサインの写真をツイッターのカバー写真にしているファンの方がいるという話を聞きました。
  山 : そうなんです。サイン会に来た女子中学生のようです。
ゼータは、入門レベルから、最先端の研究まで、数学のすべてに直接関わっているわけですね。
 小  山 :  まさにそういうことです。
ゼータが、読者層も広く、多くの数学ファンや研究者を惹きつけてやまない理由がわかりました。
  山 :
このようなジャンルに関わることができて、私も幸せだと思っています。


 
 ↑小山先生のサイン
                     

シリーズ「ゼータの現在」ですが、先生は、その編集委員になっておられますね。 
  山 : はい。今年刊行した新著の4冊のうちの最初のもの「ゼータへの招待」は、シリーズの一冊目として、いろいろなゼータを各章ごとに解説した、いわば「ゼータのダイジェスト版」でした。
ゼータにはいろいろな種類があるのですね。
  山 :  そうなんです。本来の素数の問題を解くために最初に導入されたのはリーマン・ゼータ関数というものでしたが、その後、いろいろなゼータが発見され、数学の至るところに膨大な理論が構築されています。
そこで、各種のゼータについて、一冊ずつ刊行していくことが、このシリーズ「ゼータの現在」の趣旨となっているわけですね。
  山 :  本著「セルバーグ・ゼータ関数」は、シリーズの第三巻となります。
セルバーグ・ゼータとは、どのようなゼータですか?
  山 :  一口で言うと、リーマン予想を満たすようなゼータのことです。
先ほどおっしゃった数学最大の未解決問題であるリーマン予想を、解決できるようなゼータですか?
  山 :
そうですね。リーマン予想を正攻法で証明するのは難しいので、逆側から攻めようという発想です。
逆側というと?
  山 : リーマン予想を満たすようなゼータの種類を構成し、それをセルバーグ・ゼータと呼び、リーマン・ゼータがセルバーグ・ゼータの一種になっていることを証明しようという方向です。
そう聞くと何となく理解できそうですが、その内容は難しそうですね。
  山 : ええ。セルバーグ・ゼータ関数は素数から作るのではなく、全く関係ない図形や代数的な集合から定義されるため、素数のことだけ勉強しても理解できません。
広い知識が必要ということですね。
 小  山 :  代数学・幾何学・解析学、さらに詳しくは、スペクトル理論、表現論、関数解析学など、非常に多岐にわたる数学の上に成り立っている理論です。
それだけ多くの分野が必要となると、初心者が勉強するのは大変ですね。どこから手を付けて良いかわからない気がします。
  山 : はい。それは本を書く側にとっても同じことで、どこから解説していいかわからない困難な仕事になるわけです。そのため、セルバーグ・ゼータ関数の解説書は、海外も含め、これまで出版されたことがありませんでした。
そうしますと、この本は、世界初の解説書ということになりますね。

ところで、せっかくこのようなインタビューの機会を設けて頂きましたので、少し余談になりますが、先生のご趣味などについて伺わせて頂いてよろしいでしょうか。 
  山 :  数学も趣味みたいなものではありますが、それ以外でということですね。実は私は、ジャズヴォーカリストとして、音楽活動にいそしんでいます。
どのような活動をされているんですか?
  山 :
コーラスグループを組んでいまして、年に二回ほどライブをしています。ライブの無いときは、ライブハウスのセッションに参加し、毎週のように都内のどこかのステージで歌っています。あとは、依頼があればいろいろな会合に出向いて出演させて頂くこともあります。
本学関係のイベントはどうでしょうか。
 小  山 :  ちょうど今週の金曜、1月25日に、川越キャンパスで生体医工学科のライブ発表会というイベントがあります(※)。これは、望月修教授が趣味で音楽をされていて、これまでも定期的に発表会を開いていたのですが、今回は私のユニットのメンバーを外部から呼び、ユニットとして出演させて頂けることになりました。イベントの規模も大きくして、学科の大教室に会場を移して行うようです。
それは素晴らしいですね!私も聴きに行きたいです。
  山 : イベントは金曜の日中、職員の方々の勤務時間内に行われますが、中には有給を取って聴きに来てくださる方もいます。もしよろしければ、ぜひ、いらして下さい。
上司に相談させて下さい(笑)。
  ※イベントは終了しております。

  ©撮影 河野裕昭
最後に、今後の執筆予定について伺わせてください。
  山 :
そうですね。私は実は、自分から本を書きたいと言ったことは一度もなく、周囲の勧めや出版社の依頼だけでこれまでやってきました。
あれだけたくさんの本を書かれているのに、すべて他からの依頼だったとは、それも驚きですね。
  山 :  今年度に、おかげさまで4冊の本を刊行でき、数年間の宿題をいったんやり終えた感があります。
一段落といったところですね。お疲れさまでした。今現在は、依頼されている原稿はありますか?
  山 :
実は、すでに一冊だけ、決まっています。仮タイトルは「ゼータ練習帳」で、数学好きな読者の頭の体操や、余暇に役立ててもらうことが目的です。専門書ではありません。
これはまた、これまでに先生が書かれていないタイプの本ですね。
  山 : 私自身にとって初のジャンルというだけでなく、過去にそのような本は出版されたことが無い、斬新な企画です。
そうですか。それは面白そうですね。世に出た暁には、また取材させてください。今日はありがとうございました。
  山 :
こちらこそ、ありがとうございました。
 

目次

第1章 双曲幾何学からの準備
1.1 双曲平面
1.2 測地線
1.3 等質空間
1.4 リー群としてのSL(2,R)
1.5 行列の指数写像
1.6 リー環
1.7 リー環としてのベクトル場
1.8 不変ベクトル場とリー環
1.9 不変微分作用素と普遍包絡環
1.10 カシミール元
1.11 ラプラシアンの計算

第2章 セルバーグ理論
2.1 積分作用素
2.2 ラプラシアンと平均値作用素
2.3 双曲平面の極座標
2.4 特殊関数論からの準備
2.5 セルバーグの定理

第3章 跡公式という考え方
3.1 フーリエ展開とフーリエ変換
3.2 ポアソンの和公式
3.3 セルバーグ跡公式の骨格
3.4 積分作用素の跡
3.5 跡公式としてのポアソン和公式

第4章 離散部分群の構成
4.1 四元数環
4.2 離散群の構成
4.3 離散群の数論性
4.4 基本領域のコンパクト性
4.5 放物型共役類とカスプ
4.6 楕円型共役類と錐点
4.7 双曲型共役類と測地線

第5章 セルバーグ跡公式
5.1 関数解析学からの準備
5.2 スペクトル理論
5.3 コンパクト・リーマン面の跡公式

第6章 セルバーグ・ゼータ関数
6.1 セルバーグ・ゼータ関数の導出
6.2 リーマン予想が成り立つ仕組み
6.3 力学系のゼータ関数

第7章 モジュラー群
7.1 SL(2,Z)の構造
7.2 非コンパクト跡公式の概要
7.3 アイゼンシュタイン級数のフーリエ展開
7.4 SL(2,Z)の跡公式
7.5 SL(2,Z)のセルバーグ・ゼータ関数 

 

[著者] 小山 信也(コヤマ シンヤ)

1962年新潟県生まれ。数学者。東京大学理学部卒業。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。
専門は整数論、ゼータ関数論、量子カオス。現在、東洋大学理工学部教授。著書にリーマン教授にインタビューする青土社)『素数からゼータへ、そしてカオスへ』(日本評論社)、『ABC予想入門』(共著、PHP研究所)、『ゼータへの招待』(共著、日本評論社)などがある。
 
©撮影 河野裕昭