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【著作紹介】在日コリアンと精神障害 -ライフヒストリーと社会環境的要因-

[2018年10月更新]

在日コリアンと精神障害 著者:金 泰泳(井沢 泰樹)(社会学部社会文化システム学科 教授)
出版社:晃洋書房
出版年:2017年3月発行
価格:2,100円+税
ISBN:9784771028579
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内容: 4つのライフヒストリーやアンケート調査等にあらわれた「在日コリアンの声」から、可視化されにくい在日コリアンにおける精神障害の発症原因やその様相を浮き彫りにする。

晃洋書房の紹介ページ

 

教員メッセージ(「はじめに」より)

マイノリティにとって社会とはストレスフルな社会である。マイノリティは、民族、人種、性別、出身地、またセクシュアリティ、障がいなど、属性などに基づく社会的蔑視や差別をうける、排除・疎外されるという経験を日夜している。それは、「マイノリティだから」という本質主義的なものではなく、そうした処遇をうければ、誰であってもそうなる可能性をもつものである。

そのストレスゆえにマイノリティはさまざまな苦悩をかかえながら生きている。そして、そのストレスの長期にわたる蓄積ゆえに、マイノリティは精神疾患の発症リスクが高い存在であるといえる。

ストレスは主観的なものと扱われやすい。たしかに、うけるプレッシャーに対して、それを敏感に深刻にうけとめ心身に不調をきたす人もいれば、同じプレッシャーに対してもそれを意に介さず、あるいは逆にエネルギーにする人もいるであろう。だからストレスは得てして本人の責任に帰されやすい。

それは社会的なマイノリティの場合も同じであり、マイノリティが体験して感じているさまざまな理不尽や不条理は、「それは考えすぎでしょ」、「被害妄想だ」と片づけられやすい。

在日コリアンもマイノリティのひとりである。筆者は本書で、在日コリアンが日本社会においておかれてきた位置、そしてそれによって経験してきたこと、それによって在日コリアンはどのようなストレスを感じ、それに起因して精神疾患を発症するに至るのかという、社会環境的要因をうきぼりにしたいと考えた。

その理由の一つには、在日コリアンの自殺率の高さがある。在日コリアンの自殺率は、「日本全体」のそれより、また、他の外国人より高い。そして自殺に至る経緯には精神疾患の問題が存在する。精神科医であり、2008年に逝去された黒川洋治氏は御著書のなかで、「日常精神医療の場で、在日朝鮮・韓国人と接することは稀なことではない」と述べている。

しかしそうでありながら、在日コリアンと精神障害の問題を扱った研究は積極的にはおこなわれてこなかったのが現実である。それにはいくつかの理由があるであろう。精神障害というもの自体にスティグマがもたれる傾向があるなかで、その問題と在日コリアンをつなげることは、在日コリアンに対する差別意識を助長することになるのではないかという“配慮”もあるかもしれない。また一方で、在日コリアン社会の、精神障害に対するスティグマの強さゆえに、在日コリアン自身がこの問題をタブー視してきたこともあるかもしれない。

在日コリアンであり精神障害をもつ人々の存在は、日本社会において周縁的位置にあった在日コリアン社会のなかでも周縁的位置におかれてきた存在であるといえ、そのなかに、在日コリアンの在日コリアンたる経験や記憶が凝縮されているのではないかと考えるのである。

目次

目次
はじめに

第Ⅰ部 「在日コリアン」を生きる ―四つのライフヒストリー―
1. Aさんのライフヒストリー
最初の入院時の経緯/家庭環境/地域社会からの孤立と民族団体との出会い/「ゲームの世界」
2. Bさんのライフヒストリー
家庭環境/「在日朝鮮人」の自覚/学校教育の思い出/病気の自覚/自殺企図
3. Cさんのライフヒストリー
家庭環境/「日韓ハーフ」の発覚と性的違和の自覚/在日コリアン差別の自覚/複雑なアイデンティティ/「マイノリティ中のマイノリティ」
4. Dさんのライフヒストリー
家庭環境/きびしい差別と過酷な生活/学校教育の経験とネガティブなアイデンティティの形成/大学進学と民族コミュニティとの出会い/民族団体の仕事と精神疾患の発症/入院と闘病生活/"左翼活動家"との葛藤/再発と入院/家族の死/「たての糸もよこの糸も幾重にも結んで」

第Ⅱ部 在日コリアンと精神障害における社会環境的要因
1. 在日コリアンの現在と歴史
在日コリアンとは
在日コリアンと呼称
在日コリアンと社会的距離
在日コリアンの歴史とアイデンティティ

2. 在日コリアンとストレス
在日コリアンと自殺率
実態調査から
ヘイトスピーチとストレス
モラルハラスメント化する差別
人種主義とストレス
在日コリアンと精神障害に関する研究

3. 在日コリアンと精神障害における社会環境的要因
マイノリティと精神障害
インボランタリーマイノリティとしての在日コリアン
移住の経験と周辺化
差別とトラウマ
社会経済的要因
スティグマとパッシング
マージナル・マンと複合的アイデンティティ
地域コミュニティと孤立化
「在日」の政治性と民族共同体
クリニカル・バイアス

あとがき
参考文献

[著者] 金 泰泳(キム テヨン)(井沢泰樹:イザワヤスキ)

金泰泳 井沢泰樹 先生 写真 【学歴】 1998年 大阪大学 人間科学研究科博士課程
【学位】 博士(人間科学) 大阪大学

関連リンク

東洋大学研究者情報データベース(井沢泰樹教授)
山村地域における触法/ 精神障害者の地域生活支援の可能性と課題―あるNPO法人の取り組みから―(東洋大学学術情報リポジトリ)
在日コリアンにおける複合的アイデンティティと精神障害 ―日韓の「ハーフ」で性的少数者である「男性」のライフヒストリーから―(東洋大学学術情報リポジトリ)