第7回:円了先生の大好物「甘酒」~2022年 体も心も元気にいこう!~
第7回のWeb展示は「円了先生の大好物「甘酒」~2022年 体も心も元気にいこう!~」です。
今回は「体」にも「心」にも役に立つ内容をお届けします!
新年明けましておめでとうございます。2022年も東洋大学図書館をどうぞよろしくお願いいたします。
皆様はお正月どのようにお過ごしになられましたか?美味しいものを食べて、ゆっくり過ごせたなら幸いです。
そんなお正月ならではの食べ物として、お節にお雑煮、お餅など色々ありますが、初詣などで「甘酒」を飲まれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「甘酒」は米麹の酵素の作用を利用して作られる飲み物です。別名で「一夜酒 (ひとよざけ)」「なめ酒」ともいい、漢字で「醴(れい)」とも書きます。
「甘酒」を作るには「酒粕」を利用する方法と、「米麹」と米で作る2種類の方法があります。
酒粕から作られる「甘酒」は砂糖を加えることで甘みを出しています。酒粕は栄養豊富であり、栄養素にタンパク質と食物繊維を多く含みます。
米麹から作られる「甘酒」は、麹による自然な甘みと香りが特徴です。米麹で作る「甘酒」は日本固有のものと言われています。
米麹の「甘酒」はアルコールが含まれないため、小さい子や妊娠中の方でも飲むことが出来ます。
栄養素ではブドウ糖が豊富に含まれており、別名「飲む点滴」とも言われ、近年人気が上昇し、多くの食品メーカーから販売されています。
また「甘酒」は冬に飲むイメージが強いですが、俳諧では夏の季語とされています。夏の暑い中でのエネルギーチャージ飲料として、昔から「甘酒」は親しまれていたのです!
東洋大学図書館には麹をはじめとした、発酵食品に関する資料を所蔵しています。
発酵食品が体に良いのは周知の事実ですし、この1年を健康に過ごすためにも、興味を持ったタイトルがありましたら是非手に取ってみてください!
甘酒・麹・酒粕・発酵食品に関する図書館資料
■麹に関する本
- 小清水正美著『こうじ、味噌、納豆、テンペ、甘酒』農山漁村文化協会 , 2011年
- 農文協編『漬け物、なれずし、どぶろく、ワイン、酢、甘酒、ヨーグルト、チーズ』農山漁村文化協会 , 2010年
- 小紺有花著『免疫力を上げる!発酵食レシピ : 塩麴・しょうゆ麴・甘酒で作る』河出書房新社 , 2020年
- 佐藤洋一郎, 母利司朗, 平本毅編『和食文化学入門』臨川書店 , 2021年11月9日
- 小泉武夫著 ; おのみさ絵・レシピ『絵でわかる麹のひみつ』講談社 , 2015年
- なかじ著『麹本』農山漁村文化協会 , 2020年
- 浅利妙峰著『ひとさじで料亭の味!魔法の糀レシピ』講談社 , 2011年
■発酵・菌に関する本
- 北本勝ひこ著『47都道府県・発酵文化百科』丸善出版 , 2021年
- 小泉武夫 [著]『くさいはうまい』 KADOKAWA , 2020年
- 五明紀春監修 ; 古川知子レシピ監修『女子栄養大学の誰も教えてくれない発酵食のすべて : 栄養学の最高権威が教える"賢い食べ方』 エクスナレッジ , 2018年
- 石毛直道著『魚の発酵食品と酒』ドメス出版 , 2012年
- 小泉武夫著『醤油・味噌・酢はすごい : 三大発酵調味料と日本人』中央公論新社 , 2016年
- 吉沢淑 [ほか] 編集『醸造・発酵食品の事典』朝倉書店 , 2002年
- 小泉武夫, 金内誠, 舘野真知子監修『すべてがわかる!「発酵食品」事典 : 基礎知識や解説はもちろん、レシピからお取り寄せまで』世界文化社 , 2013年
- 大瀬由生子著『食べることは生きること : 料理研究家が、真剣に発酵と食育について考えた本』カナリアコミュニケーションズ , 2018年
- 小泉武夫 [著]『漬け物大全 : 世界の発酵食品探訪記』講談社 , 2017年
- 真野遥監修『手軽においしく発酵食のレシピ』成美堂出版 , 2021年
- 中島春紫著『日本の伝統 : 発酵の科学 : 微生物が生み出す「旨さ」の秘密』講談社 , 2018年
- 農文協編『こうじ・酵母・乳酸菌・酢酸菌・納豆菌…』農山漁村文化協会 , 2012年
- 北本勝ひこ著『和食とうま味のミステリー : 国産麹菌オリゼがつむぐ千年の物語』河出書房新社 , 2016年
- 小泉武夫著『菌が地球を救う! : あなたのまわりの発酵菌が人を幸せにする』宝島社 , 2007年
- 小崎道雄著『乳酸菌 : 健康をまもる発酵食品の秘密』八坂書房 , 2009年
■電子ブック
- 吉野秋二著『古代の食生活-食べる・働く・暮らす-』吉川弘文館,2020年
- 齋藤忠夫著『チーズの科学 : ミルクの力、発酵・熟成の神秘』講談社 , 2016年
- 味澤ペンシー 著『タイ料理大全;家庭料理・地方料理・宮廷料理の調理技術から食材、食文化まで。本場のレシピ100』誠文堂新光社. 2018年
■雑誌
- 味の素食の文化センター [編]『Vesta : 食文化のひろば』味の素食の文化センター
■東洋大学教員の著作
- 佐藤順共著『食と微生物の事典』朝倉書店,2017年 ※著作の紹介ページはこちらです。
- 佐藤順共著『実用 ポケット食品衛生微生物辞典』幸書房,2018年 ※著作の紹介ページはこちらです。
・・・ここまで「甘酒」について紹介してきましたが、実は「甘酒」は東洋大学の創立者である「井上円了先生」と深い関係があります。
なんと円了先生は「甘酒」が大好物だったのです。
『井上円了選集』(※1)の『円了茶話 第二話 余が嗜好』に以下のように記されています。
余は貧家に生まれ、幼より粗食の習慣あり。ゆえにその嗜好するところ、極めて安価なもののみ。
その第一は豆腐、第二は数の子、第三は甘酒なり。
なんと、好きな食べ物に「甘酒」を挙げているのです!
この後、溢れんばかりの「甘酒愛」が続きます。
甘酒にいたりては、一時に五杯ないし八杯を傾くの勇あり。寒夜、事を執り書を検して深更に達すれば、腹虫まさに飢餓を訴えんとす。ときに甘酒を命じてこれに傾く。実に一杯千金の価値あり。
5~8杯の「甘酒」は結構な量ですし、空腹の寒い夜に飲む「甘酒」を「千金」に例えるところに、円了先生の「甘酒愛」が伺えます。
更にこの後、円了先生は遺言として、なんと「甘酒」に言及するのです!
円了先生の遺言の中にある「第8項 法会」で、以下のように述べられています。
第 8 項 法会ハ毎年一回、之ヲ営ミ、其日ハ祥月ニ依ラズ 11 月上旬ノ日曜ヲ用フベシ。其式場ハ和田山哲学堂ト規定シ置クベシ。其法会ニハ何人モ参会スル様ニ公開スベシ。
東洋大学ニ関係アル僧侶ナラバ、宗派ノ何タルヲ問ハズ、式ヲ開ク時ニ一回読経スルコトヲ依頼スベシ。之ニ続キテ拙著ノ一章ヲ朗読スルノ慣例ヲ作ルベシ。
当日ノ来会者ヘハ甘酒、若クハ紅茶カ珈琲ヲ差シ出スベシ。(※2)
この遺言は今でも守られており、中野区の哲学堂公園で11月に開催される「哲学堂祭」では参加者に甘酒、紅茶、コーヒーが配られます。
円了先生は「茶会」による「人との対話」を大切にしていました。
対話が弾むのに飲み物は欠かせません。そのことを気にかけて遺言でも遺すとは、なんとも円了先生らしい気遣いですね!
余談ですが、円了先生は著作『日本周遊奇談』(※3)でご自分のことを以下のように記しています。
余の実名は円了である。円了と遠慮とは発音がよく似ておる。ゆえに、人は余に酒食を勧めるときに、「お名前が円了であるから、遠慮なさる」という。
余はこれに答えて「名実不実のことは世の中にたくさんある。例えば昼寒くてもヨ寒といい、朝のむ茶をバン茶といい、一羽いる鳥でもニワトリといい、一枚でもセンベイ・・・(中略)・・・みな名実不相応である。
これと同じく、余の名は円了なれども、トント遠慮のできぬ方であって、名実不相応である。
シャレを効かせながら「円了ですが遠慮が出来ません」と紹介なさるなんて、なんともユーモアに溢れています!
もし円了先生が「甘酒」をすすめられたら、「遠慮しません!」と仰って、一気kに5~8杯も「甘酒」をオカワリしたり・・・なんて想像をしてみたり!
円了先生に関する図書館資料
※1・※3 は以下の資料に記載があります
- 井上円了著 ; 東洋大学創立一〇〇周年記念論文集編纂委員会編『井上円了選集 第二十四巻』東洋大学, 1987年
甘酒:p.132-133 円了茶話 第二話 余が嗜好
遠慮:p.472 日本周遊奇談 第二十五類 雑談雑類 第三七九話 円了と遠慮
※2 は以下の資料に記載があります。
- 井上円了「遺言状」『百年史 資料編I・上』 東洋大学,1988年,p.69-72
・・・ところで少し話は変わりますが、心理学用語には「自己開示」という単語があります。
■自己開示《他人に対して, 自分自身に関する情報を言語を介して伝達すること》.
"slf-disclsure", 医学英和辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge-com.stri.toyo.ac.jp , (参照 2021-11-25)
「自己開示」は他者(例えば友人や恋人など)との関係を深めていく上で非常に重要だと言われています。
しかし、なかなか自分のことを話すことは難しいです。自分を曝け出すことに恥ずかしさや戸惑いを感じる方も多いのではないでしょうか?
まして昨今のこの状況。人と対話することには高いハードルがありました。
今後どのようになっていくか、明るい兆しも見えつつありますが、まだまだ分かりません。
ただどんな時でも「人との対話」の必要性が無くなることは無いでしょう。
もし人との「対話」で「自己開示」することに怖さを感じた時、宜しければ円了先生を思い出してみてください。
・・・と言うのも、当初皆様は「井上円了=東洋大学の学祖」という堅いイメージをお持ちだったのではないでしょうか?
しかし今回紹介したエピソードである「円了先生は甘酒が大好物」や「円了先生のユーモアが効いた名前紹介」といった「その人の意外な情報」に触れたことで、少し円了先生を身近に感じませんでしたか?
自分の些細な情報でも、他者は自分を身近に感じてくれる!・・・と今回の円了先生情報で、ほんの少しでも、体感して頂けたら幸いです。
そして今回、「自己表現」や「対人関係」をテーマにした図書を、学生サポート室の相談員の方々にセレクトして頂きました。
これらの図書は「しなやかな人間関係を築く方法」「どのように自己表現すると円滑に対人関係が築けるか」「対人関係がうまくいかない時どう対処するか」といった内容が書かれています。
大学という環境では、新しい人との関りが多くあります。
それに伴うストレスも当然あるでしょうが、新たな人との出会いが自分を広げ、その後長きに渡っての深いお付き合いになる可能性も大いにあります。
自分にとって好ましい人と関係を築くことは、心と体を元気にする「源泉」を持つようなものです。
どうか自分を出すことを恐れずに、「源泉」を沢山発掘していきましょう!!
自己表現・対人関係に関する図書館資料
■図書
- 斎藤茂太著『図解版人間関係、こう考えたらラクになる』ゴマブックス , 2017年
- 大野裕著『こころが晴れるノート : うつと不安の認知療法自習帳』創元社 , 2003年
- 平木典子著『アサーション・トレーニング : さわやかな「自己表現」のために』金子書房 , 2021年
- 菅沼憲治著『セルフアサーショントレーニング』東京図書 , 2017年
- 松本俊彦編『大学生のためのメンタルヘルスガイド : 悩む人、助けたい人、知りたい人へ』大月書店 , 2016年
※こちらの図書は電子ブックでも購入しています。閲覧はこちらから。
これらの図書が、皆さまにとって良い人間関係を築く一助になれば幸いです。
1月は小寒・大寒があり、1年の中で最も寒い月と言われています。
体を温めるために何か温かい飲み物・・・円了先生の大好物・だった「甘酒」はもちろん、コーヒーや紅茶などを飲んで、どうか体と心をポカポカさせてください!
今年1年、皆さまが体も心も元気に過ごして頂けることを願っています。
掲載日:2022年1月5日