Special Issue

健康を守り、生活環境を改善する。日本は途上国のために何ができるか?

国際共生社会研究センター

2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みが広がっている。「健康」と「環境」の2つのキーワードから、開発途上国における生活環境改善を目指す北脇は、東南アジア諸国でのごみ処理や水環境改善、水供給改善をはじめ、パナマでの廃棄物管理と感染症対策に関する研究に取り組む。

「例えば、環境のためを思えば、ペットボトルはふたを外して廃棄し、リサイクルをすればよいのですが、熱帯地方ではふたがない状態で捨てると、雨水がたまって蚊が発生し、デング熱が流行します。途上国で優先されるべきは『環境』ではなく『健康』なのです」

例えば、川の水が汚いのは良いことなのか、悪いことなのか。環境の側面で考えれば悪いことかもしれない。だが、水道が整備されたから川の水は汚くなったのである。健康のために水道が整備され、排水が川を汚していく。つまり、川の水が汚いということは、健康面の問題が解決したということであり、その結果、環境問題が発生したことになる。しかし、途上国では健康を守るための水供給をすることが、まず優先される。

写真:牛車で水を運ぶ男性

「そこで、本学では国際共生社会研究センターがJICAなどと連携し、企業などに研究資金を出資していただき、途上国での井戸掘りや水道整備などに取り組み、研究を進めているのです。センターには現在、研究員のほか国内外の客員研究員が在籍しており、さらには途上国の国家公務員の方々を本学の大学院の博士前期課程で受け入れて育成し、本国の発展のために働いていただくという制度を設けています。大学として、教育と研究、社会貢献や人材育成が一体となった取り組みを今後も進め、世界に発信していきたいと考えています」

日本が戦後から歩んできた生活改善への過程は、途上国の発展における参考事例だ。その過程で得た経験を途上国に伝えることこそが、日本に与えられた使命となる。北脇は“哲学を持つ挑戦者”として、SDGsの目標年次である2030年を超えた2037年(大学創立150周年)に、東洋大学の国際開発研究が世界に通用するブランドとなることを目指し、今後も途上国におけるSDGsの実現に貢献していく。

北脇 秀敏(国際共生社会研究センター長)

国際学部教授。工学博士。専攻分野は開発途上国の環境衛生、開発途上国の水供給、廃棄物処理。東京大学大学院にて修士・博士課程修了。日本上下水道設計株式会社、世界保健機関本部環境保健部、東京大学工学部客員助教授を経て、東洋大学国際地域学部設置に携わり、現職に至る。編著に『国際貢献とSDGsの実現—持続可能な開発のフィールドー』(朝倉書店)など。