Special Issue

井上円了の国際的認知度を高め研究を国際的に推し進める

井上円了研究センター

東洋大学の創立者・井上円了は、哲学による「ものの見方・考え方」を民衆に説き、合理的・実証的な精神に基づいて迷信を打破するなど、哲学を通じて、世のため人のために活動し、日本の近代哲学の礎を築いた哲学者である。

「近代化を進める日本において、円了ほどの業績を多面的に残した人物は日本の思想史上、例を見ません。私には、その思想や業績を歴史的側面から描き、世界へ発信することで、円了の国際的な認知度を高め、研究の国際化を進める有意義な仕事があります」哲学と日本学を専攻し、博士論文執筆のために2010年にドイツから来日したシュルツァは、井上円了研究センターの研究員として研究に従事している。東洋大学が所蔵する豊富な資料に基づき、時代背景を丹念に調べながら、円了の思想とスピノザの思想の類似性について言及し、ニーチェとの時代精神における共通点を指摘するなど、グローバルな視野において考察し、『Inoue Enryo- : A Philosophical Portrait』(『井上円了—その哲学的肖像』)を英文でまとめあげた。これは東洋大学にとっても、井上円了研究の国際化を進めるうえでの大きな一歩となった。

2019年には、井上円了の長男・玄一が残した『哲学堂案内』の英語訳原稿を活字化した『Guide to the Temple Garden of Philosophy』を出版。哲学堂は井上円了がソクラテス、カント、孔子、釈迦の四聖を祀り、建設した精神修養のための公園だ。園内には哲学に由来する建物が点在し、円了の思想と世界観を垣間見ることができる。「玄一は、原稿の冒頭で『哲学堂案内の英訳が、父の理念の国際化の最初のステップになってほしい』と書いていますが、1964年の東京五輪に向けて準備しながらも書籍化には至りませんでした。井上円了没後100周年を迎え、二度目の東京五輪を前に出版することができ、父から子へと受け継がれた国際化への意志をつなげられたことを光栄に思います」と語るシュルツァ。今後も井上円了の著作集の英訳などを通じて、井上円了研究の世界への広がりに期待を寄せる。

ライナ・シュルツァ(井上円了研究センター研究員)

情報連携学部情報連携学科准教授。国際井上円了学会理事。2010年より、井上円了の生涯とその思索および行動の展開をテーマとして研究に従事。専門分野は哲学、日本学。著書に『Inoue Enryo- : A Philosophical Portrait』(SUNY Press 2019)、『Guide to the Temple Garden of Philosophy』(東洋大学出版会 2019)など。