Special Issue

産学共同研究により日本の食文化を豊かにする商品を開発

ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科 池田研究室

ガラスや布地、スポーツウェアメーカーとの産学共同研究、埼玉県や沖縄県の福祉事業所との福学共同研究に取り組んできた池田研究室が、2018年度に新たに開始したのが、キッチンウェア・ハウスウェアの専門商社である株式会社フジイとの産学共同研究だ。同社の企業理念「日本の食文化を豊かにする」に沿って、2018年度は「日本茶」、2019年度は「お米とご飯」をテーマに新商品デザイン提案プロジェクトに取り組んできた。

「企業からは明日の利益にすぐつながらなくとも、学生の意外性ある新鮮な発想力に刺激を受けるといった声が寄せられています。一方で学生たちは、ものづくりの発想が豊かになり、特にフジイとの研究では商品の企画から流通までの工程を実体験して理解し、使用者や売り場の視点を意識して“売れる”商品のあり方を考え、展示会で自身の提案商品の最終モデルをバイヤーに紹介するなど、教室の枠を超えた学びの場が広がりました」と、池田は産学共同研究のメリットを語る。

デザイン提案にあたり学生たちは、日本茶の歴史に始まり、美味しい日本茶の淹れ方、道具の使い方を学ぶことから研究をスタートさせた。学生の大半はペットボトルのお茶しか飲んでおらず、日本茶を淹れて飲んだ経験がない。そこでまず、日本茶の魅力を再発見するため、日常的に日本茶を飲んでいる方の自宅や職場を訪ねて、どのようにお茶を愉しむのかを行動観察し、「日本茶の良さとは何か」「既存の道具の使いにくさはあるのか」などをヒアリングして、使う人や場面を想定して必要な道具とは何かを考え、議論を重ねてきた。

「アイデアを出し合う過程ではフジイの方にレビューしていただき、その際のアドバイスや気づきを取り入れてブラッシュアップし、3Dプリンタを使って試作品を作っていきました。その際に学生たちのアイデアが否定されることはなく、どうしたら売れるようになるのか、商品化できるのかという改善点を含めた前向きなコメントを一つ一つに丁寧にいただけたことで、売れる商品づくりの視点を学ぶことができ、学生のモチベーションも高まりました」

「日本茶」のプロジェクトでは最終的に8つの提案をしたが、例えば、高齢者施設などで手の力の弱い高齢者がマグカップでお茶を飲んでいる場面を目にした学生は、「湯呑みを使い、美しい所作でお茶を愉しんでいただきたい」との思いから、人指し指と中指で取っ手を挟み、包むように持つ湯呑みをデザインした。手の力が弱くても安定して持つことができるように、取っ手は弧を描くようにつけ、掌でしっかり持っても熱くないように二重構造にしたという。高さの異なる湯呑みを作り、背の高い方は普段使いに、低い方は茶托に乗せて来客用にと、使用場面に応じた愉しみ方ができる提案だ。ほかにも、2人でお茶を愉しめるような急須とペア湯呑みのセット、茶さじのいらないティーキャニスターなど、日本茶を愉しむ新しいアイデアを込めたデザイン提案につながった。

安価で便利なものがあふれる現代だからこそ、文化に対する理解を深め、人の行動や欲求に応じたものづくりの発想で、豊かなライフスタイルを実現する。そして、デザインを通じて環境にやさしい持続可能な商品づくりに貢献する。今後はそのような視点も取り入れた研究へと発展させていきたいと池田は考えている。

池田 千登勢(ライフデザイン学部 教授)

ロンドン大学経営学修士(MBA)。千葉大学工学部工業意匠学科卒業後、NECデザインセンターにプロダクトデザイナーとして勤務し、情報機器の開発、海外宣伝戦略、デザイン産学共同プロジェクト、ユニバーサルデザイン製品開発などを実施。2006年より東洋大学に勤務し、准教授を経て現職。「福祉事業所における魅力的な商品開発手法」、「方向感覚と地図表現」、「色彩を用いたアートセラピー手法」等を研究テーマとする。