ロンドンの井上円了五、事件の発端となったミュアヘッドの学説に関する論争このような論点で、哲学館事件は大きな社会問題に発展した。そこで展開される主張や論争に一つの帰着点を提供したのは、当時の倫理学界における権威ある機関と認められていた「丁て酉ゆ倫理会」の見解であった。三月一〇日、同会は「哲学館事件に対する意見」として、つぎのような見解を発表した。われらは、目下問題となりおる哲学館事件につき、ム氏(ミュアヘッド)の動機説を、教育上危険とは認めず、また倫理学の教授に際し、中島氏が、その引例をそのままになしおきし所作をもって、深くとがむべき不注意にあらずと認む。この見解によって、学問上も、教授上も一切の問題がないことが示され、やがて論争は収束の方向へと向かっていった。しかし、文部省が処分を見直すことはなかった。哲学館では事件発生直後に館主不在のために「謹慎の意を表し慎重な態度を取る」ことを決め、一月に「稟ひ告こ」を掲示した。そのため、学校としての意見を表明しなかった。第三章 「哲学館事件」85 ういくん
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