ショートヒストリー東洋大学
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そして、文部省が「私立学校の撲滅策を講ぜん」として哲学館の処分をおこなったという世論の見方に対して、これを否定した。さらに、今回は単なる不注意であったのでこれだけのことで済んだが、もし哲学館がこれからも国家にとって危険となるような倫理学説を唱道するならば、学校に対して「断然閉鎖を命ずることあらん」と断言した。また、無試験検定の特典がなくても、哲学館の卒業生はほかの私立学校の生徒のように、検定試験に合格すれば中等教員になれるとも言った。ここに当時の文部省の基本的な方針が表れている。三月一二日、岡田総務長官の談話が『日本』に公表され、文部省は無試験検定の認可取り消しを再確認した。このなかで、中島徳蔵の解職に触れて、それは哲学館自身がおこなったもので文部省は関知していないこと、文部省は哲学館の設立を妨害したものでもなく、ミュアヘッドの学説を一切否認したのでもなく、ただ教授上の不注意を否として哲学館に対する認可を取り消したまでにすぎないと語り、世論のさまざまな疑惑を否定した。このように、文部省は正式な取り消し理由を公表しないで、中島徳蔵への反論を談話の形で展開した。両者の論争は後述のように、新聞・雑誌の取り上げるところとなっていっ第三章 「哲学館事件」81    

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