って出発した。哲学館と京北中学校の留守は、中島と湯本に依頼した。二日後の一七日、文部省から一通の照会状が哲学館に届いた。教育部第一科の倫理学の授業において、「動機と行為との関係」についてどのような趣旨で教授しているのかという詳細な報告と、同時に卒業試験の答案の提出を求めたものであった。この照会に対し、一九日に哲学館は、教授の趣旨を書いた回答の書類と教科書、さらに答案も提出した。さらに中島が館主代理として文部省を訪れ、岡田総務長官に面会した。このとき、岡田が質問したのはつぎの三つである。「動機善なれば弑逆を為すも可なりとは不都合ならずや」「わが国においては不都合なる引例ならずや」「哲学館においては弑逆を是認せるがごとき講義を為しおるや」中島は、館主の円了と同じく、哲学館では国体を揺るがすような教育は決しておこなっていないことを強調した。しかし、一二月になっても、哲学館の第一科倫理科の卒業生への教員免許は下付されなかった。のちに視学官自身が明らかにしたところによれば、この間に文部省は処分の検討第三章 「哲学館事件」75
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