ショートヒストリー東洋大学
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調した。しかし、隈本は会議を理由にそうそうに話を打ち切ってしまった。円了や湯本は、それぞれ文部省の要職者を訪問して、哲学館への誤解がないように説明して回った。一一月一三日、円了は文部省総務長官の岡田良平の自宅を訪問した。岡田は、視学官の報告によれば、教科書と試験問題について「不都合な理由がある」と聞き、これをどのように処置すべきか検討中であると語った。これに対して円了は、哲学館における倫理教育は「自由討究」を方針としながらも、理論と実際の二つに分けられ、内容は教育勅語に基づいて、忠孝を基本とし、国体を第一として、国民として皇室尊敬の心得を誤りなく教えている、という基本方針を説明し、教員免許について影響のないようにと繰り返し依頼した。翌日、哲学館から中島と湯本の二人が出向いて隈本視学官と面談したところ、視学官の語る調子から、「格別に心配することはない」との結果報告を、円了は聞いた。このようにして、哲学館へのうわさを確かめ、特に問題がないと判断した円了は、かねてより準備していた二度目の世界旅行のため、一一月一五日に新橋駅から横浜港へと向か74     

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