に死去した哲学科の飯島宗享教授は、同書の序文でこう呼びかけた。時は多くのものを変える。しかし時が容易に変ええないもの、変わらないものをも、時は示す。また時は、不可逆的ではあるにしても、しばしば回帰的に変えることもする。時がと云うが、その多くは時にあって人が変えるのである。……歴史はそのつど現在が作る。現在の人々が作る――前方に向かってだけでなく、後方に向かっても。過去の知られた事実への現在の意味付与において歴史は成り立ち、それを教訓とする同じ現在の意味付与において踏み出される未来への歩みが歴史となるからである。伝統もそうである。東洋大学は第二世紀入りを控えた大きな節目の今、その歴史と伝統の大枠を作り証示する又とない時に際会している。この『井上円了の教育理念』の本は、一〇年前にはじめられた高木宏夫・飯島宗享などの教員の有志による井上円了研究の成果をまとめたものである。井上円了という創立者の人間像をとらえ、明治から大正時代までの高等教育制度と、創立者の思想と行動との関係を歴史的に明らかにした。この本によって、東洋大学は改めて創立の原点をみつめ、そして、時代や社会における東洋大学の果たした役割を自覚した。第八章 大学改革への出発269
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