ショートヒストリー東洋大学
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「財界人としての責任」この日、竹村吉右衛門が渋沢敬三から依頼されたのは、二月九日の工学部新設の再審査に対する二つの問題点であった。第一は暫定となっている新理事長の候補者で、もう一つは後述する設置資金の寄付のことであった。渋沢は、新理事長として文部官僚から参議院議員になった劒け木の亨よ弘ひを考えていた。渋沢から、「取り急ぎ君に相談したいことがある。私がお伺いしなければならないが、私はいま病床にある。はなはだ恐縮だが、私の家までご足労願えまいか」と連絡を受けた劒木は、内容がわからないままに、やはり渋沢邸にきた。ここから、渋沢と竹村の説得がはじまった。渋沢 「君には関係のないことだが、いま東洋大学は存立の危機に直面している。名誉総長の鮎川義介氏が昨年辞任され、当面の責任者大嶋豊氏も昨年末に辞任、金融機関もすべてボイコット、年末給与も支給できず、財政的に破綻状態だ。当面の危機は竹村さんの好意で一応は回避したが、鮎川、大嶋両氏の計画した工学部の第六章 廃墟から総合大学へ205   んきしろ 

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