ショートヒストリー東洋大学
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明治維新以来、三〇余年の間に、日本は欧米諸国と遜色がないほどにいろいろな知識や技術は進歩したが、「国勢民力」の点では欧米諸国との間にまだ大きな差がある。比較してみれば、日本の国民の道義・徳行(道徳)が欧米諸国に遠くおよばないからである。忠孝の大切さを知ってはいても、それは非常時のことで、日常のこととしておこなわれていない。それでは民力を養い国勢を盛んにすることはできないのである。日本の一般国民にとって、道徳の教育は小学校までの修身教育がすべてで、家庭や社会での道徳教育は放棄されている。それではかえって学校で身につけたものさえ失ってしまう。欧米では宗教教会があり、日曜教会において道徳の活動がなされていて、道徳は学校よりも教会で維持されている。日本では宗教の勢力が脆弱であって、道徳教育をまかせることはできないので、新たに修身教会を各地に設けて、国民の道徳を普及させる必要がある。二度目の欧米諸国の視察では、日本の「国勢民力」を高めるには、底辺からの知育・徳育の教育が必要であるということが痛感された。そこで、今日でいう「社会教育・生涯学習」に該当する新しい教育問題を提起したのであった。104 

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