二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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東洋大学井上円了哲学センター副センター長   吉田善一あとがき二〇二二年度の「井上円了が志したものとは」作品コンクールも、無事終了することができました。ご応募いただいた方々、応募を勧めてくださった先生方、審査してくださった先生方等、沢山の方のご協力に深く感謝申し上げます。本学の創立者・井上円了先生は、東京大学文学部哲学科に学んだ後、明治二〇年、東洋大学の前身である「私立哲学館」を開設し、哲学教育による知力の開発を軸にして、広く一般市民への教育事業を開始しました。哲学館開設にあたり、井上円了先生が開館式で行った演説は、「哲学館開設の旨趣」の内容をさらに発展させたもので、哲学館の目的を下記のように述べています。・晩学(若い頃に学べなかった人)にして速成を求める者・貧困にして大学に入ることが不可能な者・原書に通ぜずして洋語を理解できない者そして、哲学館はこれらの人々に哲学を教授し、その目的は「哲学者の養成ではなく、哲学を学ぶことにある」としました。哲学は諸学の基礎となるものであり、法律家や工業家など、社会に出て一つのことを達成しようとする人は、哲学諸科を心得ているべき素養であり、また教育家や宗教家になる人が学べば、専門の学問の理解を助けることにもなります。哲学館は、このように活用範囲の広い哲学を日本語で教え、速成するための学校であると井上円了先生は言っているのです。「私立哲学館」の教育において、哲学における「思想の錬磨」(考えることの訓練)を重視するとともに、日本の伝統的な学問・文化・芸術を尊重しつつ普遍的な真理をどこまでも追究することを大切にし、「人物・人品・人徳」を育成する「知徳兼全」の目標を掲げ、さらに「独立自活」の精神を養うことを目指しました。円了先生はその教育活動において、学生に対し学力のみならず人間力の十分な育成をも期していたのです。『チャレンジャー井上円了』『井上円了の生涯』『東洋大学史ブックレット』等の冊子には、そうした井上円了先─ 71 ─

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