二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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みるに足らないというのは狭量な偏見にすぎないとして、「事実をもって」広い視野からのものの見方、考え方を学ぶように注意したという。これは現代の私たちにも非常に関係のあることだと思う。インターネットが普及し、誰もが簡単にネット上で情報を見ることができる。その情報の中には正しいものもあるし誤ったものもある。その誤った情報を勝手に正しいものだと判断し、間違った方向に進んでしまうということがよくある。これは、円了先生の言葉を借りると、「事実をもって広い視野からものを捉える」ことができていないのだと思う。一つの情報だけでなく、複数の情報を見てそれらを整理し、何が事実なのかを確認することが大切なのだ。私自身も偏見を持ってしまうことがあるが、広い視野でものを見るようにしようと思う。三つ目は「ピンチをチャンスにする」ということだ。一八九六年、哲学館の校舎は火災によって全焼してしまう。円了先生にとって「ピンチ」の状況になってしまったのだ。しかし円了先生は冷静ですぐに休校措置をとり、二番目の新校舎の建築を開始し、場所も移転することにした。大学設立に向けた「チャンス」と捉えたのである。このような行動がとれたのは、円了先生が冷静で堅実でありながら消極的ではなく積極的であるからだと思う。普通、自分がピンチの状況に陥ってしまったら、慌ててしまったり、考え方が消極的になってしまったりするだろう。そして結局、ピンチから抜け出せなくなってしまう。だが慌てず冷静に、なおかつ積極的にものごとを考えることで、ピンチをチャンスにすることができるのだ。今後自分の身にピンチが訪れた時には、冷静になり、積極的にものごとを考えてみよう。以上の三つが円了先生が学生に伝えたかったことなのだと私は解釈した。「みんな仲良く等しくつきあおう」。「偏見をもたない」。「ピンチをチャンスにする」。これらに共通して言えることは何だろうか。まず、自分以外のものを広い視野で見ることが大切だということ。その上で自分がそれらを「どう思いどう行動をするのか」が最も重要であるということだと思う。これは「人間の主体性」が最も重要であるということだ。円了先生は「自分の運命は自分で拓け」という言葉を残している。日々進歩しながら発展していく社会の中で、どのように生きていくのかを「自分で考え、判断して、チャレンジを実行する」。この「主体性」こそが、円了先生が学生たちに伝えたかったことだと思う。それは今を生きる私の心にも深く刻まれた。─ 62 ─

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