二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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た。その巡回講演を行いながら、各地で妖怪談を調査するフィールドワークを行うようになった円了は、人々のものの見方・考え方の根底に「妖怪」があり、それが生活に深く根ざし、人々に恐怖や脅威を与えていることを痛感した。その意味で、妖怪は現代においても様々な形で、我々の周りに存在していると言えるのではないか。説明がつかないこと、自分の理解の範囲を超えたことに対して、自分で考えたり、理解しようとしたりせずに「妖怪の仕業」と結論づけてしまう。あるいは、妖怪という表現を使わなかったとしても、得体の知れない何か、人間には理解できない何かといった言葉で表されることは、まさに妖怪のことを言っているのと同じだと思う。そして今、私たち人類は、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻といった、人の力では解決が難しい問題に直面している。このような時代こそ、まさに円了が妖怪という得体のしれないものを客観的に調査・分析したように、感情的に恐れたり、悲しんだりするだけではなく、冷静に情報を取捨選択して、自らの頭で考えて正しい道を進んでゆく必要がある。それこそが円了が私たちに伝えたかったことなのではないだろうか。今のような時代にこそ妖怪学を学び、自分たちの理解を超えた事象を正しく恐れ、真理を探究することが必要なのではないか。学校の構内にある井上円了の胸像を見ながら、円了の講義を直接受けてみたかったと強く思うようになった。─ 52 ─

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