二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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優秀賞飯塚由希『井上円了にとって妖怪学とは?』「妖怪」と言えば『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な漫画家の水木しげるを思い浮かべる人が多いだろう。私もこの本を読むまではそうだった。しかしそれよりも前、東洋大学の創設者である井上円了は、明治時代「妖怪博士」「お化け博士」と呼ばれるほど有名な妖怪研究家だった。円了がその研究をまとめた『妖怪学講義』は明治天皇も読んだと言われている。円了のように東京大学で勉強に励み、優秀な成績を修めたような人が、なぜ妖怪といった得体の知れないものを研究しようと考え、調査に力を注いだのか私は不思議で仕方がなかった。しかし、この本を読み、円了は妖怪そのものを解明することが目的だったのではなく、妖怪や妖怪にまつわる話を通して、人間そのものや人間を取り巻くもののあり方や原理を求めようとしていたのではないかと考えるようになった。そしてそれは、円了が言った「諸学の基礎は哲学にあり」という言葉に通じることなのだと思う。知ったかぶりをせず、なにごとに対しても「知りたい」と願い探求して、もしも真理が得られるならば、私たちはいろいろな束縛から自由になることができるという意味である。円了以外の多くの学者が、妖怪や妖怪にまつわる話を、民俗学という視点から人間の生活文化の歴史的発展を解き明かす手がかりとして研究してきたが、円了は妖怪そのものを客観的に捉え、人々を迷信から解放しようとした。円了は自ら創設した哲学館を大学として発展させるべく、資金集めのために日本中を巡回講演して回っ東洋大学附属牛久高等学校一年T組─ 51 ─ 

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