解なのが、後者のWhat一九三二年、国際連盟がノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインに、「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄を、いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」と依頼した。選んだ相手は精神分析の第一人者のフロイトで、テーマは「戦争」だった。アインシュタインは手紙の冒頭で、「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」という命題を投げかけた上で、「人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が!」と自身の見解を述べている。これに対して、フロイトは「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない」と一旦は断定するものの、戦争を回避する手立てとして、「人間の攻撃性を戦争という形で発揮させなければよい」と述べている。そして、戦争への拒絶は、「単なる知性レベルでの拒否、単なる感情レベルでの拒否」ではなく、「体と心の奥底からわき上がってくる人間の文化的存在そのものから発するものなのだ」と結論づけている(『人はなぜ戦争をするのか』講談社学術文庫、二〇一六)。である。戦争と平和を考える上で、私は稀代の科学者二人が交わした名著を手掛かりに、フロイトの言う戦争の本質や、その拒絶に働く根源を、さらに深く研鑽したいと思い、図書館を訪ねたところ、出遇ったのが井上円了先生の妖怪学に関する書物であった。井上円了は明治・大正時代の仏教哲学者で、後に東洋大学となる哲学館を設立した教育者であり、他に心理学者、旅行家など様々な顔を持つ。全国各地の妖怪伝説や怪談話を研究し、その原因となる迷信や誤解といったものを解明し、「妖怪博士」としても名を馳せる。その井上円了著『妖怪学全集』(東洋大学井上円了記念学術センター編、柏書房刊、一九九九)によると、一般の論理では解釈のつかない不思議だと考えられる現象の対象が妖怪で、妖怪は大きく「実怪(実際に現実で起きた怪奇現象)」と「虚怪(人間が自ら創りだした怪奇現象)」に分けられ、さらに「実怪」は「真怪(真理に関わる考え方で、科学では説明出来ない妖怪)」と「仮怪(一見理解し難い妖怪であるが、いつかは科学の法則によって説明できる妖怪)」、また「虚怪」は「偽怪(人為的に作り上げた偽物の妖怪)」と「誤怪(恐怖・誤認・錯覚など心理的要因による妖 ─ 28 ─
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