二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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優秀賞前川幸士井上円了と小泉八雲井上円了と同時代を生きて、共に妖怪研究に専心した日本人がいる。井上円了より八歳年上の作家小泉八雲ことラフカディオ・ハーンである。妖怪を通じて日本に蔓延る俗信・迷信を否定した井上円了と、怪談の再話を通じて日本の民俗を記した小泉八雲とでは、立場が異なると考えられているようである。自然科学的な観点から批判的に妖怪研究を行い、科学的根拠を欠いた民間信仰を打破しようとしたのが井上円了であり、その研究は小泉八雲が大切にしていた精神文化を否定するものであり、彼を大いに失望させたというのが一般的な見方かも知れない。この二人には接点がある。井上円了が哲学館を改良して「日本主義の大学」あるいは「日本大学」を設立するための講演会旅行で、松江に立ち寄った折のことである。『哲学館講義録』にある「館主巡回日記」に松江滞在の記録がある。この「全国巡講」については『井上円了の教育理念』にも記されている。仏教演説の他に学術や教育、哲学についても講演内容は拡大したようであるが、主たる内容は仏教演説であり、役所や会館、学校での講演もあったが寺院が会場になることが多かったようである。井上円了の記録に小泉八雲の名はないが、小泉八雲には週刊新聞の寄稿文に、『仏教活論序論』の著者であり哲学館館主である井上円了の松江訪問を「相当興味深い事件」とする記述がある。小泉八雲は井上円了の講演を聴き、二人は懇談したとも記されている。この中で、小泉八雲は井上円了の教育理念について、現代科学と深遠な東洋の形而上学の真理とを調和し、現代の西洋哲学の学説を取り入れ、科学的進化論であるスペンサーやヘッケルの学説は、東洋の古代思想の内に、その宗教的な─ 24 ─ 

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