二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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東洋大学長賞一般の部後藤里奈教育者としての井上円了私と井上円了との出会いは、大学時代に地元の図書館で何気なく手にした一冊の本「井上円了と柳田国男の妖怪学」がきっかけだった。私の故郷にもゆかりのある柳田国男については以前から知っていたが、井上円了については失礼ながら、高校時代に日本史の授業で聞いた記憶がある程度だった。彼らと妖怪にどのような関係があるのか、興味をそそられたのだ。妖怪学という学問があること、またそれについて研究していた人物がいるということにも驚いたが、両者がそれぞれ迷信打破、民俗学という独自の立場から妖怪について論じられており、たいへん興味深い内容だった。そして、井上円了という人物について、もっと知りたくなった。調べてみると、井上円了は東洋大学の創設者であり、生涯学習の先駆者として、民衆のために社会教育に尽力したり、官僚への道を断って哲学の普及や国民道徳の向上に励んだりしたこと、また、妖怪研究だけではなく西洋の学問にも通じ、大旅行家としての一面もあることなどが分かり、その人となりに大きな魅力を感じた。特に、「諸学の基礎は哲学にあり」という教育理念、「余資なく優暇なき者のために教育の機会を開放しよう」という信念には深く共感し、華やかな経歴を持ちながら富や名声、権力には一切目を向けず、民間の一教育者として生涯を終えたことに感銘を受けた。以来、教師を目指していた私にとって、井上円了先生は私の理想の教師像となったのだ。─ 19 ─ 

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