二〇二二年度「井上円了が志したものとは」入賞作品集
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このように哲学を重んじて富や権力にも目を向けず、現代にも繋がる誰でも等しく教育を受けられる機会を設けた井上円了が志したものとは一体何か。それは『日本の発展と多様性』であると考える。明治三五年、四四歳でイギリスを視察し、当時の日本にはない「言論の自由」や「人格の尊厳」等に触れた彼は、哲学館の方針を「独立自活の精神をもって純然たる私立学校を開設する」と変更している。政府には頼らず自らの手で日本を発展させる学生を輩出するという彼の熱い思いは計り知れない。また、円了は修身教会運動の展開という新しいテーマで全国巡講を行い、日本の国民性の向上を目的として全国各地を巡り国民道徳の向上に尽力した。これからの日本を発展させるのは未来を担う若者である。しかし今の日本は若者に優しい国であるとは決して言い難い。世界では大学教育の無償化が進んでいるのにも関わらず、日本では大学で学ぶために奨学金という名の借金を背負う学生が多く存在する。高度な教育を受けられるのは経済力のある者という風潮は今も変わらない。その中で井上円了の考えはこれからの日本の発展に繋がるものであると思われる。財力のあるなしに関わらず、学ぶ機会を与え続けている東洋大学は、まさに多様性を生み出す最先端の場所であり日本の発展に繋がる人材を生み出している。これこそが時代を超えても変わらない井上円了の志したものであると考えられる。幕末という日本の激動の時代に生まれ、三度の海外旅行で世界の何たるかを学び、日本の成長と発展のために全てをかけた井上円了。台風で完成間近の学び舎を失い、火災で全焼しようとも確固たる信念は折れることなく何度でも蘇った。数々の困難を経て約一三〇年も前に創立した哲学館は東洋大学として現在も円了の志を受け継ぎ、日本の発展と多様性のために今日も我々に新たな教えを説いている。─ 11 ─

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