34するが、狸コレクションにも袈けさ裟姿に腹部分が木魚の狸がいる(写真中央)。木魚を腹に抱えた狸の姿は、円了の生まれ育った寺と、狸と寺のつながりを示す2重の意味を持つのではなかろうか。円了が日本各地で講演した旅の記録『南船北馬集』第7編に、大正元年(1912)に小名浜(現福島県いわき市)の旅館で「その形すこぶる妖怪」な文福茶釜の鉄瓶を用いているのを見て、旅館主に交渉して交換してもらったという記述がある。当館の円了コレクションには鉄瓶がないため、どこかで失われてしまったのだろうが、「すこぶる妖怪」な鉄瓶が、狸の顔と手足が出ているものだったら、と想像してみるのも楽しい。(北河 直子)023狸と狐井上円了のコレクションには動物も多く、亀、猫、狸、狐、馬、熊、猿、蛇、鳩、アルマジロ、ふぐなどがある。はく製化したものと、土·石·木·金属製のものに分けられるが、一番数が多いのは狸である。狸は民話や絵画にもよく登場し、なじみがふかい。「他を抜く」ことから、商売繁盛と結びついて縁起のよい動物とされる一方、「狐こり狸妖怪」とも言われるように、化けて人をだますもの、民話の「かちかち山」では老婆を食い殺すものとして登場する。狸と寺は関係が深い。その代表は茂もりんじ林寺(群馬県館林市)の「分ぶんぶくちゃがま福茶釜」(または文福茶釜)に登場する狸だろう。これは茂林寺縁起の守しゅかく鶴という僧の正体が狸だったことに由来⦿石、土、木⦿山﨑記念中野区立歴史民俗資料館蔵
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