CATALOG 井上円了
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右隻─翻刻[印]鞆湾風月絶塵埃 明媚自凌厳島来 天欲使人養仙寿 備山尽処築蓬莱  一 円了道人[印][印]携去吟筇入備南 夜来林墅雨俄涵 梅花已落桃将発 今日始看春色酣  二 円了道人[印][印]鉄路一貫三備平 車窓先認福山城 汽煙横処楼台聳 疑是春天蜃気生  三 円了道人[印][印]春雨蕭々一棹風 朝烟未散望冥濛 欲留孤錫何辺好 影向松陰古梵宮  四 円了道人[印][印]万頃蒼波麦隴風 一條流水自西東 野梅花尽夜寂々只望青山入府中  五 円了道人[印][印]雪嶂林巒到處堆 出渓去又入渓來 山邨春色堪吟賞青麦田間挾白梅  六 円了道人[印]右隻─書き下し天人をして仙寿を養わしめんと欲し、備山の尽きる処蓬莱(ほうらい)を築く。吟筇(ぎんぎょう)を携え去(ゆ)きて備南に入る、夜来林墅(りんしょ)の雨俄かに涵(うるお)す、梅花已に落ちて桃将(ま色の酣(たけなわ)なるを看る。鉄路一たび貫いて三備平らかなり、車窓先ず認む福山城、汽煙の横たわる処に楼台聳え、疑うらくは是れ春天に蜃気春雨蕭々(しょうしょう)一棹の風、朝烟未だ散せずして望むも冥濛(めいもう)なり、孤錫(こしゃく)を留めんと欲するも何れの辺を好しとせん、影向松の陰の古梵宮。万頃なる蒼波(そうは)麦隴(ばくろう)の風、一条の流水西より東す、野梅花尽きて夜寂々、只青山を望んで府中に入る。雪嶂(せつしょう)林巒(りんらん)到る処堆(うづたか)し、渓を出でて去り又渓に入りて来たる、山邨(さんそん)の春色は吟賞するに堪え、青麦の田間に白梅を挟む。鞆(とも)湾の風月は塵埃を絶つ、明媚自(おの)ずから厳島を凌(しの)ぎ来る、さ)に発(ひら)かんとす、今日始めて春(しんき)の生ずるかと。左隻─翻刻[印]備北原頭万嶽欹 曲渓通処路相随 仙源自有春光異梅未散時桜已披  七 円了道人[印][印]四月備山風未和 春花不笑鳥空歌 渓頭一路探仙洞 暁破雲烟入比婆  八 円了道人[印][印]奇巖夾水幾層々 看到鬼橋身戦競 想昔女媧補天日築斯帝釋梵天陵  九 円了道人[印][印]千渓万曲路何迂 遥到孤村俗自殊春去夏来猶聞旧山家無室不囲炉  円了道人[印][印]駆車峽路入双三聴衆満堂僧俗参 起上講壇無拍手稱名声裏結清談十一円了道人[印][印]三次街頭瓦屋連長堤路上客楼懸 清流日夜悠然去 遥      十  入石州為巨川  十二円了道人[印]左隻─書き下し備北の原頭万嶽欹(そばだ)ち、曲渓通ずる処路相い随う、仙源自(おの)ずから春光の異なる有り、梅未だ散らざる時桜已に披(ひら)く。 四月の備山は風未だ和まず、春花笑(さ)かざるに鳥空しく歌う、渓頭の一路仙洞を探ね、暁に雲烟を破って比婆(ひば)に入る。奇巖(きがん)水を夾(はさ)んで幾層々、鬼橋に看到れば身戦競(せんきょう)、想う昔女媧(じょか)の天日を補うを、この帝釋(たいしゃく)に梵天の陵を築く。 千渓万曲して路何ぞ迂(う)なる、遥かに孤村に到れば俗自ずから殊(こと)なる、春去り夏来たり猶旧(ふるき)を聞くがごとく、山家に室無く炉を囲まず。 車を駆りて峽路に入ること双三(ふたちて講壇に上れども拍手無し、称名の声裏に清談を結ぶ。 三次(みよし)の街頭に瓦屋連なり、 長堤の路上に客楼懸かる、清流日夜悠然と去り、遥か石州に入りて巨川と為る。み)、聴衆堂に満ち僧俗に参(まじ)う、起31

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