CATALOG 井上円了
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(書)[印]邑楽名物御存じないか 分福茶釜と干饂飩 麦落雁と鮒 鯰 方言デンボウ イシ オゾイ 花山躑躅と善導寺 まだもあります 大谷休泊邑楽客中館林美名傳旅館にありてよむ 甫水[印]  29書かれている詩は井上円了が大正6年(1917)12月の群馬巡講で群馬県邑おうら楽郡館林町(現館林市)に滞在した際に詠んだもので、邑楽郡の名物を集めて、俗謡として作詞された。「分ぶんぶくちゃがま福茶釜」というのは館林の曹洞宗茂もりんじ林寺に伝わる伝説の茶釜のことである。昔、この茶釜で湯を沸かし、千人の客に飲ませたが、何度汲んでもお湯が尽きることがなかったということから、妖怪の類いとされた。円了は館林で講演をした翌日、実際にこれを見物にいっている。「干ほしうどん饂飩」や「麦むぎらくがん落雁」は、館林地域が全国でも有数の麦の産地であることを象徴する名物であり、「鮒」「鯰」の川魚は、利根川の上流中流に位置するこの地域一帯の伝統食となっている。円了も名物の鮒のアライを食べており、これを「天下一品の美味なり」と絶賛している。(『井上円了選集』第15巻、東洋大学、1998年、p.250)この詩は、邑楽郡の伝説や食文化、ほかにも方言や名所、偉人の名前などが盛り込まれており、あらゆる面からこの地域の特徴を捉えた作品といえる。(太田 有紀)019邑楽名物御存じないか⦿絹本墨書、掛幅 ⦿井上円了書  ⦿大正6年(1917)⦿東洋大学井上円了研究センター蔵

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