CATALOG 井上円了
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21鼓が置いてあった。この木鼓の表面には「心」の字が彫られている。西洋のハートシンボルを引用して「心」の字源を示すことによって、円了は西洋の文字文化と漢字文化を対照的に示すことができた。西洋文明は、漢字とは違ってアイコンを文字化しなかったのである。このハート型の木鼓に見られる美術的工夫は、それだけに止まらない。読経·念仏などの仏教の儀礼で使用される体鳴楽器、つまり木魚を転じて作成されたものであり、それゆえ、現在は「心字木魚」と呼ばれている。「南無絶対無限尊」という円了自身が考案したマントラは、同様に「心字木魚」を打ちながら唱えるべきであり、そうすることで安心をもたらすものであったと思われる。円了のデザインした心の鼓による鼓動は、実際に修行者の心臓の脈拍を安定させることも不可能ではなかっただろう。このような唱念の方法は、円了が考えた「道徳山哲学宗」としての哲学堂公園の瞑想的実践であるといえる。四聖堂内部四聖堂外観井上円了墓(蓮華寺、現中野区)(ライナ·シュルツァ)

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