CATALOG 井上円了
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19てこにして唯物論を批判し、円了自らが確信する「霊魂不滅」を理論的に解き明かすものとなっている。その基軸にある思想は、無から有は生じないというものである。たとえば個体が液体となり、そして気体となって物質の形状は変化したとしても、物質そのものとしては無に帰するものではないように、宇宙の本体とともに生まれ、仮に現在人間の精神という形をとっている霊魂もまた、宇宙とともに変化を続けながらも、不生不滅なのである。このような円了の霊魂論が、個体の人格的な「霊」の不滅を前提にしてはいないことは注目に値しよう。円了はこのような意味での「幽霊」は激しく否定している。ただし、円了はこうした「霊魂」不滅の原理を第22回以下で現実の人生問題に応用することを忘れない。もし霊魂が不滅であるとすれば、それは人生に苦しむ人や失意の者たちに希望を与えるであろうと説く。雄大な構想に裏打ちされた人生哲学を垣間見ることができる。(甲田 烈)011通俗講義 霊魂不滅論(付 霊魂集説)本書に先立って明治31年(1898)に四聖堂から公刊された『破唯物論』が専門性の高い著作だったのに対して、より一般読者の求めに応じて著述された。ベースは有志の請いによって行われた談話であり、全編が親しみやすい語り口調となっている。井上円了の著作の中では読みやすい部類に入るせいか、昭和58年(1983)には新編妖怪叢書の1冊として国書刊行会から再刊され、その4年後には独立した1書として「霊魂集説」を割愛した形でやはり国書刊行会から刊行されている。そして割愛された部分も含めた形態としては、昭和62年から東洋大学で刊行された『井上円了選集』の第19巻に収録されるに至った。 『霊魂不滅論』の本編は全30回からなり、附録の「霊魂集説」は神道の部、儒教の部(付雑書)、仏教の部からなる資料集となっている。本編の21回までは、その当時に自然科学の2大法則として知られていた物質不滅の法則(質量保存の法則)と勢力恒存の法則(エネルギー保存の法則)を⦿井上円了著、小立鉦四郎(南江堂書店)発行 ⦿明治32年(1899)4月27日発行 ⦿東洋大学附属図書館蔵

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